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「渡したいと思う気持ちは山々でしょうが、今はひとまずケーキを食べてからにしましょう」
安野の掛け声と共に今井らが姫宮達の前に、また別のケーキをそれぞれ置いていった。
大河の誕生日ケーキはあくまでも大河のものであるから、別に用意してくれたのだということだろう。
「大河、そろそろケーキ食べようか。大好きなハニワのケーキ、大河が全部食べていいんだからね」
胸に顔を埋めていた大河に優しく声を掛けてみるが、ぴくりとも動かない。
「たーちゃん、いっしょにたべよ?」
伶介が気にかけて声を掛けてくれた時、ちらり程度であったが、少し反応を見せたが、それまでだった。
「ほらほら早くしないとハニワが人間に襲われてしまいますよー」
大河が元々座っていた席の後ろに立っていた小口がいつもの淡々とした調子で言ってみせると、バッと小口の方へ振り向いたかと思うと、姫宮の腕の中から離れ、元いた席に戻っていった。
姫宮と伶介が言っても素直に聞いてくれなかったのにどういうことなのだろう。
いつもの小口の言い方に腹立てたということだろうか。
用意してくれていたハニワのフォークを手に取った大河は、しかし、ハニワのケーキを見つめたまま微動だにしなくなった。
今度はなんだろう。
「大河? どうしたの。食べてもいいんだよ」
そっと声を掛ける。すると大河は背もたれに立てかけていたボードを持って、こう押した。
『しゃしん』
「写真、って⋯⋯」
「あっ、たーちゃん、ハニワのケーキをとってほしいんだね」
声を上げた伶介が大河にそう言うと、大河は頷いた。
ああ、そうだ。言われるまで思いつきもしなかったが、我が子の祝い日に写真を撮らないだなんて。
さっきのロウソクを吹き消すところも撮りたかったと今さら後悔していた姫宮は、その後悔分撮っておこうとポケットを探る。
が、いくら探っても携帯端末はなかった。
「愛賀、どうした」
「スマホ忘れてきちゃったみたいで⋯⋯」
「では、私がとって来ますね!」
姫宮が言い終えないうちに江藤が颯爽と取りに行ってくれ、すぐに戻ってきた彼女に多大なる謝罪をし受け取った。
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