4 / 6

◆好きになった人は◆◇4◇ 誰かの運命との恋

 シンはガレージへ入ると、すぐに荷物を投げ捨てて直人(なおと)を抱き抱えた。そして、そのまま猛ダッシュで部屋へと向かう。2階の奥にある自室に行くまでの僅かな時間がもどかしくなるほどに、直人の甘い香りに魅了されて、何度も意識が飛びかけた。  抱き抱えられている直人も、シンが走って伝わってくる僅かな衝撃でも、思わず小さく喘いでしまう。やっと会えた運命への焦がれた想いが、それに拍車をかけて行った。 「ねえ、お兄さん、抑制剤打ったのに何でこんなに香ってるの? ちょっともう限界……俺も緊急薬打つからここで寝ててよ」  そう言って優しく直人をベッドへと寝かせた。そして、アルファのラットに対する緊急抑制剤を打とうと、クリニックへ向かおうとしたところへ、直人が後ろから飛びかかってきた。 「だめ! だめ行かないで! お願いだから、抱いて! 俺ずっと待ってたんだ! もう待てないよ!」  必死になってシンに抱きつく直人は、悲痛な声をあげて抱いてくれと懇願し続けている。シンは、熱い息を逃して耐えていたが、ついに限界を迎えてしまった。 「あーもう! 俺ちゃんと我慢したからね! するから、俺のことちゃんと好きになってよ!」  そう言って振り返ると、ベッドへ直人を押し倒した。その体にのしかかり、噛み付くようにキスをする。触れただけで走った甘い痺れは、吸い付く度にその強さを増していった。 ——これ、何なんだ? 俺はこの人の運命じゃ無いのに……。  唇を触れて、離す。離れた時に感じる寂しさが、もう一度唇へと引き寄せていく。息をするのも忘れて、二人は口付けをした。 「シンっ。ん、はあ……」  一時も離れたく無いのか、直人はシンの名を呼びながらもずっと唇をくっつけたままにしている。体の境目を無くして一つになろうとしているのか、ずっと体を擦り付けている。  シンはそんな直人の服を、一つずつ丁寧に脱がせていき、その肌にするりと手を滑らせた。そこから走る刺激が、体の奥底からの命令が、この人を手に入れろと叫び始めていた。  たとえ運命の相手で無くとも、発情したオメガと共にいるのだ。手に入れたくならないわけがない。それも、ついさっき出会ったばかりにも関わらず、一目で恋に落ちてしまった相手なのだから、その全てを一秒でも早く自分のものにしてしまいたいに決まっている。 「ね、なんて呼べばいい?」  シンは、自分が直人の求めている人とは違うことを悟られないため、名前を知らないから尋ねているのでは無く、どう呼ばれたいのかを確認するために訊いているようなフリをした。  直人はもうヒートの熱に浮かされていて、あまり小さなことに拘れなくなっている。相変わらず肌を擦り付けながら、聞かれるままに名前を答えた。 「直人って、そのままがいい。呼んで、シン。お願い」  夢を見るような目で下からそう強請られ、シンは思わず首に噛みつきたい衝動に駆られてしまった。直人の首にはカラーが付けられていて、噛んだとしてもすぐに番うことは無い。  それでも、ラットに陥れば完全に意識を無くしてしまう可能性が高いため、それすら壊すこともあるかもしれない。それは避けたいと思っているため、慎重に冷静さを保とうと努力した。 「直人、本当に抱いてもいいの?」  そう問いかけながら、キスを少しずつ下げていく。首元に鼻先を埋めて直人の香りを嗅ぐと、自分の熱が一気に高まり、痛いほどになっていった。 「いいよ。……んっ、ン。して、お願いだから」  直人はシンの首にしがみつき、その唇を求めた。シンはそれに応え、胸の粒を指で擦る。触れるたびに直人の体がじわりと捩れ、口から吐息が漏れた。その度に直人の熱とオメガの香りが高まり、シンの手は自然と下へと導かれていく。 「ああっ」  先端から垂れた糸を連れてそっと入り口を撫でるだけで、直人はさらに欲を漏らした。ギュッと握り締められたシーツの皺は、そのまま直人の喜びを表しているように見える。  シンはゆっくりと最初の一本を進めた。つぷ、と音がして、途端に二人の体に流れる痺れが強くなる。 「はあっ、シンっ……」  直人は初めて味わう心地よさに、思考の全てを奪われていった。ただ指が一本入っただけでこんなにも気持ちがいいなんて、これまで一度も経験したことが無かった。  信司(しんじ)を待って5年が過ぎた頃、告白されて初めての恋人が出来た。それから何度か出会いと別れを繰り返してきたが、家族に捨てられた後ろめたさからか、恋人が出来てもいつも言いたいことも言えず、ただ相手に合わせるだけの生活をしてきた。  だから、セックスの時もいつもどこか冷めていた。どうせ本当にして欲しいことは、口に出せないのだからと思って、夢中になれなかったのだ。 「あっ! やっ、なんで。これ、恥ずかしい……」  シンの手から流れ込む気持ちよさに耐えかねて、腰が一人でに動いて止まらない。口からはとめどなく嬌声が漏れ、絶え間なく喜びに溢れ、シンを迎えたくて仕方がないと体が叫んでいた。指を迎えた場所はグズグズになり、喰らいつくようにして寂しがっている。  シンは直人を傷つけないために、必死にゆっくりと体を開いてくれていた。その優しさに心がきゅっと甘く痛む。 「シン、来て。お願い! お願い……」  欲が溢れて辛くなり、直人はシンの熱にそっと手を触れた。張り詰めたその先は直人と同じで、絶え間なく糸を引いている。直人はそれを手のひらに塗りつけると、そのまま握り込んで上下した。 「あっ、直人……わ、わかった、わかったよ。ゆっくりするから、離して!」  直人の手の熱に浮かされたシンは、逃れようと後ろへ引いた。それから優しく中へ入ろうかと思っていると、直人がシンを押し倒して襲いかかってきた。 「えっ!? ちょ、ちょっと、直人!」  直人はそのままシンの上に座り、自分からその滾った熱を迎え入れに行った。 「あっ、あっ、あ……ン!」  ずるりと奥まで入り込んだアルファを、オメガは奥で捉えた。行き止まりまでたどり着いた瞬間、直人の体は喜びに震えた。それはシンも同じで、二人とも声にならない快楽に飲まれ、動けなくなってしまった。 「シン。ずっと、こうしたかったよ」  そう言って泣く直人の腰を掴んだシンは、その涙を見て少しの罪悪感に見舞われた。ただ、直人がシンを運命として認識している以上は、このまま繋がってもいいと思いたかった。 「直人、好きだよ」  自分の上で乱れる直人を愛でながら、シンはそれに合わせて下から穿っていく。高まる快楽と想いが本能と混じり合い、頭の芯を蕩けさせていく。 「ああ、あん、シン、シ……ン」  凶暴なほどに強くなっていく愛しさが、歯の造形を変えていく。僅かに見え始めた牙が、最後まで目の前の人を手に入れようという、本能の焦りに思えてきた。 「さすがにそれはダメだろう」  シンはそう呟くと、直人の腰を片手で掴んで、思い切りグラインドし始めた。 「ああっ、シン、いっ……ン、あああ!」  ただ、直人が昂まるように、ただそれだけのために必死になって動いていく。そして、自分の欲が暴走しないように、その牙をガブリと腕に突き立てた。

ともだちにシェアしよう!