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今世こそは平穏に生きる!②
(今のままじゃ静かに学校生活を過ごすこともできないな……)
起き上がると、痛む身体を伸ばす。蓮斗は二年生の頃からいじめを受けている。今は三年生。つまり一年程その状態ということだ。理由はわからないけれど、もしかしたら地味で目立たないため、憂さ晴らしをするには丁度いいと思われたのかもしれない。今日も暴力を振るわれて力尽きていたところを輝に見つかったのだ。
(平穏に暮らすためにはいじめられないようにしないと)
前世ではいじめとは無縁の生活をしていた。むしろ、アリステラの方がいじめをしているのではないかと思われることも多々あり、その度にシリルに怒られることもあったほどだ。
(いじめたかったわけじゃないんだけど……)
アリステラはシリルに近づく者を牽制しては、礼儀やマナーを指摘して泣かせたりしていた。それを悪いことだとは思っていなかったし、アリステラ自身は気が強いだけで礼儀作法も完璧だったため周りもなにも言えなかったのを思い出す。なにより権力があり、男とは思えないほどの美貌を兼ね備えていたため、ご機嫌を伺う人間は多かった。
(そうだ!綺麗になればいいんだ!!)
舞い降りてきた妙案に蓮斗は顔を綻ばせる。鏡を見ると、ボサボサで目を覆い隠すほど長い黒髪の自分の姿が映った。顔を左右に動かして全体を確認した蓮斗は、うぇ〜っと声を出しながら苦い表情を浮かべる。それからすぐに自室を飛び出すと、共用リビングでテレビを見ていた都城に話しかけた。
「ねえ、髪を切るためのハサミ持ってない?」
「はあ?そんなの持ってないけど。てか、そのうざったい髪ようやく切る気になったのかよ。それだったら美容室が敷地内にあるからそこ行ったほうがよくね」
「たしかにそうだね!君もたまには役に立つじゃないか!」
「さり気なくディスるのやめてくんない?」
前世の記憶を思い出す前、蓮斗は引っ込みじあんで人とあまり深く関わることができない質だった。けれど、都城とだけは同室なこともありそれなりに話をする仲だ。ただ、クラスが違うためイジメのことについて都城は知らない。それにいじめのことを知られたくはなかった。
蓮斗にとって自室で都城と話すときだけが、友達と過ごす安心できる時間だからだ。いじめのことを知られてしまえば、その時間はなくなってしまうかもしれない。それは絶対に嫌だ。
「髪を切りたいのはわかったから、とりあえず冷蔵庫にある飯食っちまえよ」
「そうだね。いつもありがとう」
満面の笑みでお礼を伝えてから、冷蔵庫の中にあったおかずをレンジで温める。そんな蓮斗のことを都城がいぶかしげな表情で見つめてきた。
「お前なんか変だぞ」
「ん?どこが??」
「どこって……性格だよ。いつもはもっと、なんていうか暗……いや、物静かだろう」
一生懸命オーブラートに包んで聞いてくる都城。蓮斗はレンチンの終わったおかずを取り出して、テーブルに置きながら言い訳を考える。
素直に前世のことを伝えるわけにもいかない。信じてももらえないだろう。
「平穏に暮らすために変わることにしたんだ」
「平穏?なんだそりゃ」
「とーにーかーく、僕はこれから新たな香波蓮斗 に生まれ変わるんだ!」
ほかほかのオムライスを頬張りながら高らかに宣言をする。そんな蓮斗に都城は若干珍生物でも見るような視線を向けてくるのだった。
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