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関わってこないでよね!①

 休み明けの登校前、蓮斗は髪を整えながら鏡に映る自分を観察していた。 ボサボサだった髪は美容師の手によって短く綺麗に整えられている。そのおかげか、アーモンドアイの煌めくブラウンの瞳がよく見えるようになった。 (見れば見るほどそっくりだ……)  色こそ違うが蓮斗はアリステラに瓜二つ。アリステラは銀髪に紫の瞳で女神のような風貌だったけれど、日本人らしい色味の今は女神というよりも儚げな美少女のようにすら見える。 自分で自分のことを褒めながら、買い揃えた美容グッズと整髪剤を使い身だしなみを整えていく。親からの仕送りをコツコツ貯めていたためお金の心配はない。 「お前本当に香波か?詐欺だろ」 「ふふん。僕の美しさに今更気がつくなんて見る目がないんだね」 「……お、おう……」  戸惑いの表情を浮かべる都城に、蓮斗は得意げな表情を向けてみせた。この姿ならいじめられることはなくなるはずだ。そうなれば平穏な生活にも一歩近づく。  だらしなく見えない程度に制服を着崩して着用すると、教科書を用意して部屋を出る。都城とはいつも別々に出るため、教室につくまでは一人だ。  学園内の廊下を歩きながら、蓮斗は周りからやたらと熱視線を浴びせられていることに気が付いた。こうも見られていては気が落ち着かない。教室に近づくにつれて人も多くなり、感じる視線も増えていく。 (めちゃくちゃ見られてる……)  前世の記憶を思い出したとはいえ元々内気な蓮斗は、突き刺さる視線に辟易していた。その状態のまま教室の前へと辿り着くと、やけに人混みができていることに気がついて疑問に感じる。 目を凝らすと人混みの中心に輝の姿が見えた。瞬間、慌てて教室内へと入ろうと人波へ飛び込む。 「見つけた」  けれど、伸びてきた手に腕を掴まれて身動きが取れなくなってしまった。恐る恐る振り返れば、にこやかな笑みを浮かべる輝と目が合う。周りからの視線が一気に集まり、冷や汗が背を伝った。  ここで輝と関わってしまえば、身だしなみを整えた蓮斗の努力が無駄になってしまう。輝はこの学園でもっとも特別な存在だ。有名な資産家の息子で、眉目秀麗。成績優秀。完璧で誰もが憧れる生徒会長。噂ではファンクラブのようなものもあるらしい。山奥の土地を整地して作られたこの学園は閉鎖的なうえに、男子生徒しかいない。そんなところにいれば欲の対象が同性に向くのもわかる気がする。  そのため、彼と親しくしていると周りから思われてしまえば、蓮斗の平穏な生活は金輪際訪れることはなくなるだろう。むしろいじめが激化してもおかしくはない。 「来て」 「えっ、ちょっ!」  心配とは裏腹に輝は、蓮斗の腕を掴んだまま人波を掻き分けて前へと突き進んでいく。ついてくる生徒を巻くためなのか、途中から駆け足になり運動の苦手な蓮斗は息も絶え絶えだ。

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