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食えないやつ①
悲しいことに友達のいない蓮斗は、お昼ご飯はいつも食堂で食べるか、都城が用意してくれたお弁当で済ませている。今日は都城が朝練があるということでお弁当はない。そのため、食堂へと足を運んでいた。
ガヤガヤと賑わう食堂内を歩きながら席を探す。先に席を取って置かないとすぐに埋まってしまうからだ。
「香波じゃん。一緒食うか?」
「都城。ぼっち?」
「それはお前もな。にしても香波は見た目変わってから目立つよな」
「当然でしょ。こんなに可愛いんだから」
「はいはい。席は取ってあるから注文しようぜ」
流されたことは不満だけれど、一人は少し寂しかったため都城に会えたことは素直に嬉しい。今日の献立を見つめながら注文を終えると、取ってあった席へと戻る。
「そういや噂で聞いたけど、会長と手を繋いで逃避行したんだって?」
「……はぁ?」
もう噂になっているとは思わず、思いっきり眉間に皺を寄せてしまう。それに断じて逃避行などではない。輝とは関わらず平穏無事に過ごしたいと考えているのに、なかなか蓮斗の思い通りにはいかない。
「めちゃくちゃ眉間に皺寄ってるけど、違ったのか?」
「違うに決まってるでしょ!なんであんな……」
薄情者と言おうとして口を閉ざす。少し離れた人だかりの中を輝が歩いていたからだ。あの見た目は嫌でも目についてしまう。彼の隣には小柄な男子生徒が歩いていて、二人は楽しそうに話をしながら席へとついた。生徒達が二人を見つめながらお似合いだと口々に話している。
「吉澤先輩は相変わらず綺麗だよな〜」
都城がうどんを啜 りながら呟く。吉澤志乃 は生徒会書記を務めている。輝と居ることが多く、付き合っているのではないかという噂もある程だ。可憐な見た目からファンも多い。
「へ〜、あんなのが好みなんだ」
「そうじゃなくてさ。吉澤先輩はなんていうか見てるだけで癒やされるんだよ」
「ふーん。僕は苦手だな」
志乃はルキナと似たような雰囲気がある。純粋で清らか。周りにいる人を穏やかな気持ちにさせる。その反面、自分が傷つけられれば、周りに異常な攻撃性を発揮させその相手を追い詰める。そういう人間は隠し事が上手い。蓮斗はもう騙されたくはないのだ。だから、ああいう人間とは関わりたくない。
できることなら輝と志乃が噂通りくっついてくれればいいとすら思う。恋人ができれば輝も他の人間にかまけている暇などないだろうから。
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