9 / 19

お勉強会①

蓮斗は頭を抱えていた。輝が蓮斗と話していたことは瞬く間に学園中に広がり、クラスメイト達にどんな関係なのかと尋ねられたり迫られたりすることが増えたからだ。 それともう一つ、蓮斗を悩ませている問題がある。それは中間テストの存在。前世を思い出す前はいじめられていることに悩み、勉強どころではなかったうえに、容量があまりよろしくなかった。 「あれもこれもそれもこれも!なにもわからないじゃないか!!」   自室のリビングで教科書や課題プリントを散乱させながら、癇癪を起こしたように叫ぶ。折角整えていた髪も乱しながら、パンクしそうな脳内をフル稼働させる。 「お前って真面目に勉強するくせに、いつも成績は最後の方から数えたほうが早いもんな」 「あー、聞きたくない!」   常に優秀だったアリステラの記憶が、現状を受け入れられず大暴れしている。こうなったら猛勉強するしかない。決意した蓮斗は血走った目を都城へと向けた。 「都城って成績良かったよね。中間テストまで放課後と夜は勉強に付き合ってもらうから!」 「拒否権は……」 「あると思ってるの?」 「ですよねー」   遠い目を向けてくる都城を無視して、教科書へと視線を戻す。ただ、家庭科は捨てることにした。蓮斗は料理も栄養のこともまったくわからないから。アリステラも同様だ。だから、炊事担当は都城がしてくれている。   次の日、宣言通り放課後に図書室で勉強をすることにした。都城ももちろん一緒だ。机に置かれた教科書と睨み合いをしながら、解き方を覚えていく。 「暗号に見えてきた……」   ずっと数式を見つめていたせいか、すぐに疲れてしまう。椅子の背もたれに身体を預けて、疲れを逃がすように息を吐き出した。 「あんたなんかが勉強しても無駄でしょう」   後ろを通って行った生徒に堂々と悪口を囁かれて身体を起こす。呼び止めて顔を見ると、狭山がこちらを睨みつけてきた。蓮斗は綺麗に整えられた眉を歪ませると、狭山から視線を外し再び勉強へと戻る。相手をしていてもしかたない。貴重な時間を狭山に使うのは惜しかった。 それに、ここには都城もいる。いじめの件はバレたくない。彼まで離れていってしまうことが怖かった。大切な友達だと思っているからこそなおさらだ。 「別クラスだから知らないかもしれないけど、香波って皆から嫌われてるから一緒にいない方がいいんじゃない?巻き込まれるかもよ」   蓮斗の気持ちとは裏腹に、狭山はニタニタと意地の悪い笑みを浮かべながら都城に話しかける。その瞬間、苛立ちと焦りに任せて蓮斗は持っていたシャーペンを机へと勢い良く置いた。  カンッと高く響く音が図書室に反響する。焦っている姿を見て楽しんでいるのか、狭山が更に笑みを深めたのがわかった。 「そんなに慌てなくてもいいじゃない。だっていじめられているのは本当のことでしょう」 「っ、本当にくだらない。こんなことしてなにが楽しいわけ?」   今も昔も、人を落として楽しむ風潮は変わっていない。アリステラが醜聞を流されたとき、周りは助けてくれるでもなく噂に乗り、口々に非難してきた。いつもは褒め称えてくる令嬢達でさえ同じだ。誰もアリステラの味方をしてくれる人はいなかった。シリルでさえも……。  その時の記憶と今が重なってしまう。身体が微かに震えていた。 「なにかあったのかい?」   聞こえてきた穏やかさを含む声が鼓膜を揺らし、蓮斗は無意識に声のした方へと顔を向ける。輝の姿を捉えた瞬間、脱力しそうな程の安堵感に包み込まれた。

ともだちにシェアしよう!