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宿敵との再会①

中間テストも終わり、落ち着いた日常へが戻ってくると信じていた。けれど、そう上手くはいかないようだ。蓮斗は靴箱の中に入れられた紙を見つめながら、深く眉間にシワを作る。 「会長に近づくなだって?はんっ、バカらしい」  手に取った紙をグシャグシャと拳で丸めて、ゴミ箱へと勢い良く突っ込む。そもそも、蓮斗が輝を避けていても、輝から近づいてくるのだからどうしようもない。それにこんな幼稚な方法で脅されても、一欠片も心に響いてはこない。傷つくこともありえないから、平気だ。 (あいつの仕業なのかな……)  この間の志乃の意味深な台詞や、狭山のいじめは止まないという言葉が頭に浮かぶ。察するに、これまでのいじめの主犯も志乃の可能性は高いだろう。カフェで断られたことを根に持っているのだろろうか。だとするなら、警告文だけでは終わらないはずだ。 (眉間のシワは美容の大敵なのに)  眉間を揉みながら蓮斗は心の中で愚痴をこぼす。決して今回のことを軽視しているわけではない。アリステラのときも、初めは些細なことから始まり、最後は収集のつかない事態まで発展したのだから。警戒するのは当然のことだ。けれど、どうにも腹が立って仕方ない。どうせなら直接本人に文句を言ってやりたいくらいだ。  けれど、志乃の仕業だと決まったわけでもないのに動くのは危険だとわかっている。だからこそ、とりあえずは怒りを沈めておく他にない。  教室へと向かう廊下を歩いているとき、ふと見知った人物が通った気がして、窓から見える別館の方へと視線を向けた。瞬間、蓮斗の胸が酷くざわつき始める。輝と志乃が楽しげに談笑しながら歩いている姿が視界に飛び込んできたからだ。丁度考えを巡らせていたところに現れた、二人の姿に眉を寄せる。 (……むかつく)  近づくなと牽制してくるくせに、自分は生徒会書紀の立場を利用して輝の隣に堂々と並んでいる志乃のことが気に食わない。それに、輝もヘラヘラと笑みを浮かべている。その姿を見ていると腹が立って仕方ない。まるで前世に戻ったような心地になった。  アリステラはいつもこんなふうに、並んで歩いているシリルとルキナを見つめていた。苦しくても、悲しくても、自分はシリルには振り向いてはもらえない。性別も性格も、ルキナには勝てないとわかっていた。それでも、嫉妬で焦げ付きそうになる気持ちを抑えて、公爵令息らしく振る舞った。良くも悪くも貴族らしい貴族として、マナーを重んじ、自分にも他人にも厳しく過ごしていた。  たしかに我儘な面はあったかもしれない。それでも、アリステラは人を貶めようとしたことだけは天に誓って一度もなかった。ルキナのことも心優しく、王子であるシリルの隣に立つに相応しい人間だと心の奥底では認めていたのだ。けれど、その清らかさが嘘で塗り固められた偽りの姿だと知ったのは、檻の中で一人寂しく刑を言い渡される日を待っていたとき。  なにもかもが遅すぎた。本当に愚か者だった。平民堕ちしてからは、食べるものすら手に入らず、慣れない生活の中必死に藻掻いていた。それでも、真冬の寒空の下、覚束ない足取りで教会へと向かい何度も祈っていたのはシリルのこと。 (……シリル、君にアリステラの祈りは届いていたのかな?) _____どうかシリルが何者にも害されることなく健やかに立派な王となりますように。  アリステラは死ぬ間際までシリルのことが気がかりで仕方なかった。性悪であるルキナに騙されていないだろうか。お人好しな部分のある彼が、幼馴染であるアリステラが処罰されたことを思い苦しんでいないだろうかと。  蓮斗が前世を思い出したのは、そんなアリステラの深く強い未練が残っていたからかもしれない。 (輝の前世はシリルなのだろうか……)  それはわからない。けれど、きっとそうなのだという根拠のない確信はある。だからこそ、志乃と一緒に過ごしている姿を見るたびに、心が騒ぎ立てる。 「……輝、気がついて」  ポツリと言葉が漏れた。

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