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第7話

 棚にしまってある救急箱を持って自室へ行った。  軟膏はひんやりして塗るのが辛く、抜いた指を見るとべったりと血がついている。精液もまだ残っていて青臭い匂いに鼻白む。  手首には手錠のあとがついているし、尻は鞭で叩かれたので皮が剥けて痛い。  痛いのは嫌いだ。でも痛みでレイプされた夜を上塗りしている。  一度犯されたから重く受け止めてしまう。なら二度、三度と回数を重ねていけば忘れられるかもしれないとジープに男娼を持ちかけられた。  (でもここまで痛めつけられるとさすがに堪えるな)  傷ついた身体に薬を塗って新しいシャツを羽織ればどうにか誤魔化せるだろう。  リビングにまだウォルフの姿はない。随分遠くまで出かけているのだろうかと思っていると外か らパンッ、パンッと音がする。  窓から顔を出すとウォルフが薪割りをしていた。重い斧を片手で軽々と振り下ろしている。  唯一苦手な家事は薪割りだ。  片手では重たい斧が持てず、薪を割ることができない。仕方がないので暖炉の燃料はジープに頼んでいるがこれが結構金がかかる。  森に囲われているので木材は腐るほどあるのに薪木として使えないことに歯痒さを覚えていた。できるだけ出費を減らしたかったのでウォルフがやってくれるのはありがたい。  宿代代わりだろうか。  視線に気づきウォルフが顔をあげた。汗一つかいていないことから慣れているのかもしれない。  いや、斧を振るうのに違和感がない。木こりだったのだろうか。それとも別のなにかだろうかと考え始める頭を振った。  詮索したってしょうがない。  鍋を温め直し、パンを切って皿に並べた。  シチューがぽこぽこ湯だってきたので鍋敷きに移すとタイミングよくウォルフが戻って来た。  「薪割りしてくれてありがとう」  「大したことない」  「それに皿も洗ってくれただろ?」  「すまない。片手だと難しいな」  罰が悪そうに顔を伏せるウォルフが可愛らしいと思った。最初は無表情なやつだと思っていたが、意外と表情に変化があって見ていて面白い。  朝食を食べ終わって片付けをしていると外から「ラビいるかい?」と聞き慣れた声がする。ウォルフが警戒するように耳をぴんとさせたのが横目で見えた。  扉を開けると友人であるジープが立っていた。  くるくるの白い髪と黄金色の瞳に横長の黒目が特徴的な羊型。着ている服や靴は着心地重視で高いものじゃないと気が済まないと自慢している商人だ。  街へ行けない自分のために月に二、三回特別に食料や日用品を届けてくれる。そして襲われたときに助けてくれた恩人だ。  「元気にしてた?」  「ぼちぼちかな」  「いつも通り食料と日用品持ってきたよ」  「助かる」  「……彼は?」  後ろのウォルフを見てジープはぺたんと耳を下げた。あからさまに警戒している。  「彼はウォルフ。ハスキーだ」  「ハスキー?」  素っ頓狂な声をあげるジープに首を傾げた。  そんなに驚くようなことだろうか。  「本気で言ってるの?」

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