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第8話

 「本人がそう言ってる。なぁ、ウォルフ」  「……あぁ」  ウォルフに問うとぎこちなく頷いてくれた。  じっと様子を伺うようにジープは目を細め、耳打ちをしてくる。  「なんで肉食動物がいるんだ」  「犬だから雑食だろ」  「どっちでもいい。なんでいるんだ?」  「森で倒れてたから連れてきた」  「おまえなぁ」  常日頃からどれだけ肉食動物が恐ろしく、街で暴れ回っているかを教えてくれているのに、その真逆の行為をした自分が信じられないらしい。  ジープは根っからの肉食動物嫌いだ。  「でもウォルフはいい奴だよ」  「騙されるなよ。肉食動物はいつでも僕たちを狙ってるんだから」  顔をずいと近づけられ、あまりの剣幕に頷くしかない。その態度に少しだけ気を持ち直したのかジープがポケットから赤い封筒を出した。ここには客の名前と日時が書いてある。  「それとまた予約が立て続けに入ったぞ」  その言葉にげんなりした。  「昨日の馬はなんだ。尻が傷ついた。しばらく使い物はならない」  「あーそれは悪いことをした」  「だからせめて今週は休みたい」  「それはダメだ。相手は貴族だ。なんとかしろ」  「なんとかって無理なものは無理だ」  事前に慣らしておかなかった自分にも落ち度があるが、昨晩の客はいきなり身体を開いてきた。  だがジープの顔色が一瞬で変わる。  友人でもあるが、雇用主でもある彼は仕事のこととなると厳しい。特に今回は珍しく貴族の客だ。さぞかし羽振りがよかったのだろう。  「……薬を渡さないと言ったら?」  ジープの脅し文句にぴくんと耳が跳ねた。  薬はなくてはならない存在。  痛みと天秤にかけるまでもなく首肯した。  動かなくなった右腕を撫でると冷たい風があいた胸を通り過ぎ、体温を奪っていく。  以前は画家として生計が立てられるくらい稼げていた。だが絵を描けなくなった途端、自分にはなにもないことに気がついた。  学も力もないひ弱なうさぎは身体を開くことでしか金を得る選択肢がない。  「ラビ」  低い声に振り返る。憮然とした顔のウォルフが後ろに立っていた。  「そいつは誰だ」  「この人はジープ。俺の友だちで食料を運んできてくれるんだ」  「おはようございます、ウォルフさん」  ウォルフは答えず鋭い眼光でジープを睨みつけている。もしかして話している内容を聞かれただろうか。  身体を売ることは国で禁止されているがダメと言われるものほど人は欲する。食料品や日用品の売買の裏で取り引きがされる。  ジープのように仲介人に頼み、好みの人と交わり、代わりに高額な金品を渡す。そういう裏稼業が地下深く眠る水脈のように広まっている。その一旦を担いでいる身としてはウォルフにバレて騎士団に通報されたら色々と面倒だ。  「彼は商人なんだ。街から食料をいつも届けてくれる」  「高品質で新鮮さが売りですのでぜひご贔屓に」  「……これのどこが新鮮だ?」

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