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第10話

 横柄な態度のウォルフにまた驚いた。どうやらジープを嫌っている節がある。初めて会ったのにどうしてだろうか。  「では今度はウォルフさんのお眼鏡に叶う商品を持っていますね。ラビ」  名前を呼ばれてジープに近づくと白い小袋を手渡された。つんとする薬草の匂いに眉間を寄せるが、同時に安心もする。  これをーー抑制剤を稼ぐために男娼をしている部分もある。  抑制剤は珍しい薬草を調合しているせいでとても高いが、避妊薬にもなるので水商売の必需品だ。  薬を稼ぐために身体を開き、身体を開くから薬が必要になるという悪のループに陥っているが気づかないふりをした。  「ほら約束の」  「ありがとう」  「確かもうすぐだよな?」  「予定通りなら再来週」  「ヒートのときは高く値がつくんだぞ。本当に休みでいいのか?」  「……妊娠したら困るし」  「特異体質ってのは大変だな」  さして同情した様子もないジープをギロリと睨みつける。大変の四文字で済ませられるようなものじゃない。  男なのに発情期があり、三ヶ月に一回うなされる日が一週間も続く。しかも薬が効きにくい体質らしく気休め程度しか役に立たない。  発情期はセックスしたほうが身体は楽にはなるが、ラビは子宮がある特異体質だ。発情期の妊娠率は高いので一人で過ごさずおえない。  でも、あの夜は時期ではないのに発情期がきてしまった。最悪なことに薬も常備しておらず、フェロモンに当てられラット状態の虎に犯され、腕を傷つけられた。  幸い助けてくれたジープが運よく持っていた緊急避妊薬を飲んだお陰で妊娠はしなかったが、ヒートの日が近づくたびに恐怖が蘇ってくる。  自分の意志に反して男を求める浅ましい身体に辟易しつつもどうしようもできない。  そして事情を知ったジープがこの小屋を紹介してくれた。街まで距離があれば襲いに来る人はこないだろうと後押しされ、着の身着のままここにやってきたのが四年前。  そこからずっと男娼として使われている。  「とりあえず今晩の客は絶対受けろよ」  「……わかった」  「ではウォルフさん、失礼しますね」  ジープは恭しくお辞儀をして、従者を連れて街へ戻って行った。  「あのジープというやつは昔からの仲なのか?」  「ここ四年くらいかな。どうして?」  「……随分親しそうに見えたから」  「まぁ同じ草食動物だし、気が合うと言ったら合うのかな」  種は違うが捕食される側だったということもあり考え方は似通っている。だがジープは肉食動物をかなり毛嫌いしていて、顔を見せるたびにどれだけ恐ろしい存在かを説き伏せていた。  さすがに今日はウォルフがいた手前話題にならなかったのでよかった。その話になると長い。  「肉食動物と草食動物をまだ区別しているのか?」  「でも事実だろ」  「いまは平等な暮らしができている」  「どうだかな」  ジープから草食動物は人間になってもまだ虐げられていると聞いた。実際に目にしたわけではないが、昨日出会ったばかりのウォルフと前から付き合いのあるジープのどちらを信じるかなんて愚問だ。  「それより朝ご飯にしよう。新鮮な野菜があるからサラダも作ろうか」  献立を考えている素振りをしながらウォルフの表情を盗み見たがどこか浮かない顔をしているのが気になった。

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