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第13話

 浅い眠りを繰り返しているうちに夜になった。  ウォルフに何回か声をかけられたような気がしたが、適当に返事をしていてよく覚えていない。  部屋は暗く、月光が物憂げに差し込んでいる。時計を見ると日付が変わったばかりだ。ウォルフはすでに自室に引き上げたらしくリビングに気配はない。元々夜更かしをするタイプではないのかもしれない。  喉も乾いたしお腹も空いた。それに傷薬を塗りたい。  音をたてないようにドアの施錠を開けてリビングを覗く。  部屋は暗くやはりウォルフはいない。  ラビがいない間も自炊をしていたのか竈や食器の位置が微妙に違う。  それにテーブルの上には形が歪で中身がでているサンドイッチが置いてあった。ウォルフが作ってくれたのだろうか。  皿の横にメモには不器用な斜め上がりの字で『具合いがよくなったら食べてくれ』と添えてあった。  そのやさしさにまた涙が溢れた。  サンドウィッチを一口かじる。レタスの水気でべちゃべちゃのパンとトマトの汁が顎を伝う。味付けもなくただ素材の味そのものなのにいままで食べたなかで一番美味しい。  トマトやレタスはほとんど切れておらず、どちらかと言えば手で千切ったに近い。水気が残っていてベトベト。片手で悪戦苦闘しながら料理をするウォルフの姿を想像するだけで荒くれだっていた心が穏やかな春の風に変わる。  手紙の下にお礼の文を書いた。  『ありがとう。とても美味しかった』  もっと感謝の言葉を伝えたいのにこれ以上のものが見つからない。絵だったら描けるのにと動かない右手を撫でる。  ウォルフの絵を描いてみたい。斧を振るうのには躊躇がないのに包丁だと少し不安げになる横顔を真っ白なキャンバスに残したい。  記憶だけではいつか色褪せてしまう。でも絵だったらずっとそのときの感情や熱、想いを残すことができるのに。  もう一度右腕を撫で、手紙にそっと口付けた。

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