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第19話

 「もうすぐヒートだったな」  「……予定通りなら今週中」  「客はとってないから感謝しろよ。おまえは長く使えるんだからな」  その一言にぴくりとこめかみが反応したが、聞き流した。  玄関口まで見送るとちょうど積み荷を運び終えたらしい。汗を拭っている従者たちにジープは声をかけた。  「さぁ街まで戻ろう」  「……はい」  「じゃあね、ラビ」  休む暇も与えずに従者たちは再び荷車を押して山を下りていった。  (あんなに馬車馬のように働かせなくてもいいのに)  小さくなっていく後ろ姿を見送っていると木箱を抱えたウォルフがそばに寄ってきた。  「どうかしたか?」  「なんでもないよ」  「そうか」  言葉少なく返したウォルフはジープたちの後ろ姿を睨みつけている。まるで獲物を見つけて狙いを定めた肉食動物なようで、鼻がひくひくとしてしまう。  「悪い。オレはどうもラビを怖がらせてしまうらしいな」  「いいよ。もうこれは遺伝子に組み込まれてる特性みたいなものだから」  「でも怖がらせるつもりはないんだ。それは本当だ」  許しを請うような表情が面白い。ウォルフは初めて会ったときからラビを怖がらせないように距離感を図ってくれている。  ウォルフにとって少しの力でラビを屈服させられるのに絶対にしない。むしろ一歩後ろから付き従うような態度だ。  「なぁどうしてウォルフは威張らないんだ?」  「威張る?」  「肉食動物ってみんな威張ってばかりだろ」  「確かにそういう奴もいるが、みんながみんなそうじゃない。草食動物でも威張ってる奴もいる」  「そうなの?」  胸を張って街中を堂々と歩く自分を想像したがピンとこない。いつも視界に入らないよう道の端っこを歩いていた。  「肉食動物、草食動物というよりかはその人間の性格だと思う」  「でも」  ジープから耳にタコができるほど肉食動物は恐ろしい奴だ、街で暴れまわっていると聞かされていた。  疑うラビにウォルフは顎に指をかけて言葉を選びながら話を続ける。  「王政が変わったのを知っているか?」  「王様が変わったってこと?」  「そうだ。いまの王様は肉食動物、草食動物関係なく平等な生活を望んでいる」  「それは本当?」  あまりにも信じられなくて聞き返すとウォルフはうんと頷いた。  「自分の目で確かめてみるか?」  「……街には行きたくない」  「なにがあってもオレが守ってやる」  青みがかったグレーの瞳があまりにもまっすぐなので頷きそうになった。  確かにウォルフがいたら身の保証は守られるかもしれないが、それだけで街へ向かえるほど心は強くない。  身体が小刻みに震えだし左手でかき抱いた。  「無理だ」  まだ身体に残っている。  虎に犯された生々しい感触を。  ヒートのせいで無理やり挿入されても痛みはなく、ただ脳天を突き抜ける快楽が広がった。

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