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第20話

 心は恐怖で震えているのに本能は犯されて悦び、気持ちよさを求めるように腰を振った。  誰でもいいから奥を突かれたくて仕方が無くなるヒートが怖い。  自分が自分でなくなるような感覚。  まただれ彼構わず求めてしまうのではないか。  突然ヒートが来てしまうのではないか。  そんな不安を抱えたままずっと生きてきた。  だからセックスは痛くて苦しいものだと刻むように客と寝た。痛みを求め、何度も何度も刷り込んで、細胞にまで叩き込み、苦痛ばかりの交わりをしてきた。  そうすればレイプされたときの快楽が間違いだと教え込んだ。  でももう痛いのは嫌だ。  家族と離れ一人で暮らすのも寂しい。  街に帰りたい。  でもまたレイプされたら嫌だ。  どっちつかずのままラビはその中心に立ち続けている。  身体を抱き締めようとしても片腕だけでは心許ない。そんな様子に気がついたのかウォルフが一歩右側に距離をつめきた。触れそうで触れられない絶妙な距離感。  「行ける気分になったら言ってくれ。いつでも付き合うから」  「……どうしてそこまでする?おまえには関係ないことだろ?」  ウォルフは困ったように笑った。  「世話になっているからな」  「でもいつか俺を置いて街に戻るだろ」  弾かれたようにウォルフがこちらを見る。瞬間、自分がとんでもない発言をしたと気がついて顔が熱くなった。  (まるでずっとここに住んで欲しいと縋っているようじゃないか)  こんなの告白と同じだ。人恋しいからとウォルフのやさしさに漬け込み、それに甘えて寄りかかっている。  ウォルフが自分の不安定な心の添え木になって支えてくれているのだと自覚した。それと同時にこんな感情を持ってしまったことを恥た。  (そうだ、好きじゃない。ウォルフなんて好きじゃない)  奥歯を噛んで芽吹こうとしている感情を押し止める。  今日まで一人で生きてこれた。  痛みだけが生を実感できる。いまの自分にはやさしさは毒だ。  でもやさしさの甘さを知ってしまって、再び一人に戻れるだろうか。最初から孤独と愛を知ってしまった孤独では寂しさの重みが違う。もう一人では這い上がれないほどやさしさという毒に犯されている。  「ラビがよければずっといたい。でも」  一言区切ってウォルフは街を見下ろした。  星のようにぽつぽつと明かりが点いている街には大勢の人が住んでいる。それが普通だという印のようだ。  群れから逃げ出したラビはその印の一つにはなれない。  「寒くなってきたな。早く戻ろうか」  話を反らされてしまった。でもまだこれでいい。  どうせその先はなにを言われても傷つくのが目に見えているのだから。

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