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第21話
季節の変わり目の嵐が過ぎると一気に春めいてくる。
気温が上がり、草花は咲き誇り蝶々や蜂が忙しなく蜜を集めている。
窓を開けているだけでも花の香りが入ってきて心地よさにうっとりと空を眺めた。
春が一番好きだ。
穏やかな空気に心が休まり、森が彩られていく姿を見るとまるでその一員になれたかのように嬉しくなる。
薬草も春に咲くものが多い。そろそろ探しに行ってもいいかもしれないと籠を手に取る。
「出かけるのか?」
「薬草を取りに行こうと思って」
「オレも行く」
「そんな楽しいものじゃないよ」
「ラビと一緒にいたいんだ」
どうしてそんな歯の浮くような台詞を恥ずかしげもなく言えるのだろう。
顔が熱い。
「……わかった」
「ありがとう」
「なんでおまえが礼を言うのさ」
「嬉しいからだ」
惜しげもなく愛情を向けられるとどう返せばいいのかわからない。莫迦な奴、と返すだけで精一杯なラビの手からウォルフはさりげなく籠を持った。
「いい天気だな」
空を見上げるウォルフに釣られると雲一つない絵の具をひっくり返したような青空だった。
目に染みるような陽光はどこまでも澄んでいる。
すんと鼻を鳴らせたウォルフが周りを気配を探るように見回した。
「どうした?」
「甘い香りがする」
「甘い? 花の匂いかな」
「……違う」
ウォルフは鼻をひくひくとさせ匂いを辿り、ラビのうなじで止まった。
「ここだ」
その瞬間、全身の産毛が立ち上がった。咄嗟にうなじを押さえたがもう遅い。
ヒートがきたのだ。
身体が熱くなる。頭が茹だってきて、思考がままならなくなり恐怖を覚えた。
まただれ彼構わず求めてしまう。
間が悪いことにいまはウォルフがいる。こんな情けないところ見られたくない。
回れ右をして家のなかに入った。早く抑制剤を飲まないと。気持ちばかり焦ってしまい、足元が覚束なく転倒してしまった。
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