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第22話

 「大丈夫か?」  慌てて駆け寄ってくれるウォルフの目はぎらぎら 光り、ラビを欲しているのがわかる。  フェロモンにあてられた肉食動物はラットを起こして襲いかかる。この身体に刻まれている恐怖は痛みを感じないように分泌され、あろうことか快楽を極限まで高めてしまう。  身体の芯から奥を犯されたくて堪らないと訴えてくる。足が震え、とてもじゃないが立てそうもなくみっともなく床に座り込んだ。  「やだ……もう、やっ」  ウォルフの手が伸びる。怖いのに抵抗できない。  ーー与えられる快楽を知っているから。  そんな一時の悦楽のために同じ道を踏み外したくない。  ぎゅっと瞼を閉じるとウォルフに抱き締められた。気遣うようなやさしい抱擁。嫌なら逃げてくれと言わんばかりに弱々しい。  けれど耳元では何度も荒い呼吸を繰り返し、喉を唸らせている。  まさかラットを抑え込もうとしているのだろか。  「抑制剤は……?」  「仕事部屋」  「少し、待ってくれ」  体温が高く、吐息が肌に触れるだけでぞくぞくと背筋が震えた。  軽々と抱えられ、鍵のかかっている扉の前で止まり、戸惑うような視線を向けられる。  部屋に入るなという最初の忠告を守ろうとしてくれているのだろう。  「俺はもう立てないから、薬とって」  「どこにある?」  「サイドテーブルの引き出し」  「わかった」  ウォルフは遠慮がちに扉を開けるとまた動きが止まる。部屋の様子に言葉を失っているのだろう。  だがすぐに気を取り直してサイドテーブルから薬を口にねじ込まれた。  「んんっ」  「吐き出すなよ」  ウォルフの指を舌で舐め取るとしょっぱい味がする。これがウォルフの味だと認識すると尻尾が興奮で動く。  「水を取ってくる」  「いいから……ここにいて」  ウォルフが離れてしまうのが寂しい。首に腕を回して引っつくと「くそっ」とウォルフが吐き捨てた。  口のなかに苦みが広がっていく。この味は何回飲んでも好きになれない。  唾液で飲み込もうとしても喉がからからで、粉が腔内で固まってしまった。  何度も喉を鳴らすがうまく飲み込めず、舌の上でざらざらした感触と苦みが残る。  「ねぇキスして」  「無理だ」  「お願い。薬飲めない」  「水を取ってくる」  「キスがいい」  ウォルフの頬に手を添えて口づけた。触れるだけなのに甘い。驚いたウォルフの隙をついて舌を侵入させると遠慮がちに絡ませてきた。  唾液を交換するような激しいキスをして、ようやく抑制剤が喉元を過ぎていく。体内で燻っていた熱を包みこんでくれるはずなのに、やはり効きが悪い。むしろどんどん身体は火照ってきて腹の底が疼く。  (だめだ、このままだとまた)  性器に熱が集まり、固くなり始めていた。触っていないのに後ろが濡れている感覚もある。  ウォルフの手にうなじを撫でられ、その柔らかな肌触りがうっとりと瞼を閉じた。  キスも触れ合っている箇所も全部が気持ちいい。もうこの雄が欲しくて堪らない。本能に屈した精神は容易くラビの理性を焼き切った。

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