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第23話

 「ベッド行こう?」  甘く誘うとウォルフは喉を鳴らした。両目はぎらぎらと輝きを増して血走っている。ラットを起こしているのは明白だ。  でも本能のまま求めようとはせず、強靭な精神力で堪えている。  「泣かなくていい」  頬を伝っていた涙をウォルフがやさしく拭ってくれる。青みがかったグレーの瞳が虹彩を放ち、暗く塗りつぶされたラビの心を照らしてくれた。  「嫌なら無理強いはしたくない」  「嫌……だよ。でも身体がおまえをどうしようもなく求めるんだ」  本能と心のバランスが均衡にとれない。どんなに強く心を持っても必ず本能に屈してしまう。  それが嫌で街から離れて一人で暮らしているというのに人恋しいからとウォルフをここに留めてしまったせいで、迷惑をかけてしまった。  涙が止まらない。情けなくて惨めで悲しい。  身体を満たして欲しい欲求は自分では抑え込むことができず、手短にいる雄を求めてしまう。  「ごめん……ウォルフ」  こんな姿見せたくなかった。全部自分が弱いせいでウォルフに損な役回りをさせようとしている。  でももう一人で自慰をするのも寂しくて心が押しつぶされる。  どれが正解なのかわからない。  「全部オレのせいにしろ」  耳元で囁かれる言葉に顔をあげると頬を撫でられた。ラットを起こし、冷静ではないはずのウォルフの顔はとても穏やかだ。  「だってヒートが」  「違う。オレがラビに惚れてるからだ」  その言葉に目を見張った。同時に心を掴まれたようにきゅっと苦しくなる。  (いま惚れてると言った?)  それはつまり自分のことを好きだということだ。  いままで向けられてきた視線や行動の意味を理解し、頬が火照る。  触れるだけのキスをされてから肩口に頭を擦りつけられた。  「ラビが嫌なことは絶対にしないから……いいか?」  本能に屈しつつも理性と戦っているウォルフの顔に欲が煽られる。  そんなこと伺わなくていいのに。小柄の身体を押さえつけて犯すのなんて赤子の手のひらを返すように簡単なはずなのにラビの気持ちを尊重しようとしてくれている。  いままでの男たちとは違う。ラビを痛めつけ、自分が上だと屈伏させることで己の自尊心を守っているような心根の腐った奴らとは雲泥の差がある。  こんな風に扱われたことがなくて戸惑う。  (これが愛されるということだろうか)  両親や弟妹から向けられる愛情の形とは違う。同じ種類のはずなのに心を満たしてくれる器が違う。 自分の存在すべてを受け入れてもらえたような安心感がある。  小さく頷くとウォルフはリビングのソファにラビを座らせた。離れたくなくて無意識にシャツを掴み、自分から唇を重ねた。かさついた唇なのに柔らかくて弾力がある。  離れようとすると頭の後ろに手を回され、交わりが深くなる。  口を開くと舌が入ってきて、応えるように舌を出して絡めた。  吸われたり噛まれたりを繰り返していると全身が疼く。  角度を変えてキスを深くさせているとウォルフの手がシャツの隙間から入ってくる。  腰を撫で上へと伸びていき、赤い突起をぐるりと撫でられくぐもった声が漏れた。  「あっ」  「痛い?」  首を横に振るとウォルフは破顔した。  気を良くした手は乳首を撫でる力を少しずつ強めていく。少しでも眉を寄せたら力を弱めて、蕩けるようなキスをしてくれる。

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