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第29話
「……よくなかった?」
「そうやって自分の価値を下げるな」
怒ったような言い方に肩が竦むと、そうじゃなくてな、とウォルフが付け加える。
「絵が描けなくなったからとか身体を開くことしか価値がないとか、自分で自分を傷つけるような言葉を使うな」
「でも」
「好きな人の悪口を訊くのは辛い」
心臓を殴られたように強く拍動した。好きな人、とウォルフの口から出てくるたびそれはこんな汚い自分に向けられていいはずじゃないと反駁したくなるのに嬉しく思ってしまう。
真正面から逃げずに愛情を伝えてくれるウォルフの誠実な姿に心が天秤のようにぐらつく。
このまま縋りつきたい気持ちと犯されて悦んでいた後悔がいったりきたりして、どっちつかずのまま返事ができずに沈黙だけが続いた。
静寂で耳が痛くなってきた頃、ウォルフが口を開く。
「必ず幸せになれる」
そうだろうか。いつだって哀しいことしか起きない。
未来に希望なんてもてず、ただ時間を無駄に消費しているだけのラビにはウォルフの言葉が絵空事のように聞こえた。
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