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第31話

 夜になりジープは帰ったが、小屋の周りには従者がうろついており、逃げ出さないか見張られている。  玄関と客が入る裏口に見慣れた顔が一人ずつ。いつも荷車を押している二人だ。  まだウォルフの熱が残っている身体を他の誰かに上書きされるのは耐えられない。どうにかして逃げないと。  時間が刻一刻と迫る。  外で話し声が聞こえ、客が来たのかと身構えたが、どうやら見張り役の二人が玄関前に集まり話しているらしい。  見張りをしたことのないただの従者なようで、ただ立って待っているだけの時間に飽きてしまったのだろう。  これ幸いと自室に移動し、窓を開ける。鼓膜に集中して些細な音と気配を拾うが誰もいない。  慎重に外に出て、気づかれないようゆっくりと歩き、百メートルほど離れたら小走りで街へ向かう。  行くあてはない。けれどもうあそこにはいたくな かった。  十五分ほど走るとやっと街の入口が見えた。  灯りがぽつぽつと灯り、夜でもまだ活気づいている。  人混みに紛れれば逃げられるかもしれない。  「おい、どこにいった?」  風に乗って小屋にいた男たちの声が聞こえる。 どうやら客が来て自分がいないことに気づいたらしい。このままでは連れ戻されてしまう。  人混みに紛れてまた走った。走るのは得意だが、右腕が使えないとバランスが悪い。それでも捕まりたくない一心で無我夢中に足を動かす。  どうやら街では収穫祭を祝っているようで、中心部まで抜けると明かりがなく人の姿も見えない。  裏道に入ろうかと逡巡したが、レイプされたときの記憶が蘇り身体ががくがくと震えだしたので辞めた。  四年ぶりの街はなにも変わっていない。街並みも出ている店も屋根の色もあの頃のまま時間が止まってしまったかのようだ。だから余計にあの出来事が昨日のことのように恐怖心が芽吹きだす。  あの日もこんな夜で人通りがなかった。珍しく酒屋でアルコールを煽った帰りにヒートがきてしまったのだ。  「ラビ?」  名前を呼ばれ肩が跳ね、大きく一歩踏み出すと「待って!」と聞いたことのある女性の叫び声に振り返った。

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