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第35話
「つまりウォルフは俺を探しに山まで来たのか?」
「ちょっと違うな。ジープの一味に怪我をさせられそうになっていたリスを助けようとしたら、なにも知らない市民に襲われた。怪我させるわけにはいかなかったから、反撃できなくてな」
ジープは自分に使った手段のように誰かを怪我させて普通の仕事に就けなくなったと嘘をつき水商売を斡旋させて儲けていたのだろう。
つくづく救いようがないクズ男だ。
でも一つ疑問が浮かぶ。
「ウォルフが騎士団団長なら団長は死んだとジープから聞いてたけど」
「その噂を流せばあいつらが動くと思ってた。なかなか尻尾を掴ませてくれないから苦肉の策だったが、ラビと会えたからよかった」
「でもそれは結果論だろ」
そもそも傷ついたウォルフを見つけなければ、助けようとしなければずっとジープに騙されたまま痛みを求めていた。
その未来を想像して、ぞっと背筋が震える。
なんて恐ろしくて救いようがないのだろう。
自分の考えていることがわかったのかウォルフはふんわりと笑う。
「ま、終わり良ければ全て良しと言うじゃないか」
「さすが肉食動物は短絡的だ」
皮肉ると母親は笑った。
「団長様はずっとラビを好きでいてくださったのよ。うちに何度も通ってきてくれてやっぱり狼って一途なのね」
「狼?ハスキーじゃないのか」
「莫迦ね。どう見ても狼でしょ」
母親の言葉に今度こそ腰を抜かした。そもそもウォルフは狼で、騎士団団長で、ジープのことを捕まえてくれてそれから、それから?
「すまない。肉食動物を怖がっていると知っていたから言い出せなかった」
「もう隠してることはない? いまのうちに全部聞きたい」
「最後に一つ」
「まだあるのかよ」
ウォルフは上質なズボンが汚れてもいとわないのか地面に立膝をついて抱き締められ、耳元に口を寄せてくる。
「ラビを愛している」
「ばっか!おまえこんなところで」
「まぁまぁそういう関係だったのね」
母親の言葉に違うとは言い返せず、ただただ俯いた。
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