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第2話 1章 風を求めて

 九月、秋の気配が感じられるころ、尚久は久々の母国の地を踏んだ。やはりアメリカとは違った匂いがする。これが日本の匂い。尚久は大きく息を吸い込んだ。懐かしさが体を満たした。自分は日本人だ。大げさではなく、そう思った。  家族の出迎えを避けるため平日を選んで帰国した。大げさに出迎えられるのは照れる以外の何ものでもない。  尚久は一人我が家に向かった。母の雪哉は早めに帰宅しているとのことだが、他の家族はそれより後の帰宅になりそうだ。いずれにしても、夕方には皆顔を揃える。久しぶりに家族と顔を合わせる。楽しみでもあるが、少しばかり怖くもある。  あの人はどうしているだろうか……幸せには違いない。蒼の幸せを、心から歓びたい。そうすれば、自由になれるような気がする。何に? 自分の心に。 「ただいま帰りました」 「お帰り! おーっ、やっぱり久しぶりに会うと変わったな! お前も大人になったな!」 「母さんはあんまり変わってないかな、元気そうだね」 「ああ元気だよ、まだまだ現役だ」  母に出迎えられ、尚久はリビングへ入る。やはり懐かしい。帰ってきたことを実感しながら、ソファーに腰を下ろす。長時間のフライトの後だ、ほっとする。 「皆の帰宅はもう少し後かな?」 「ああ、ぼちぼち帰ってくるだろう。今日はお前が帰国するから、皆そんなには遅くならない」  母が入れてくれたお茶、懐かしい日本のお茶を飲みながら話していると、玄関で物音がした。 「おっ、帰ってきたな、春久たちだ」  すると、たたたっと足音がして、小さな男の子が入ってきた。 「ばーばただいま!」 「お帰り!」  雪哉に抱きついた男の子、春久は、むくっと顔を上げて尚久を見ると、誰この人? という感じに顔を傾げた。そこへ蒼と彰久も入ってくる。 「おおっ、帰ったな!」 「なお君お帰り! 久しぶりに会うと、なんだかたくましくなったね」 「ただいま帰りました! 兄さんも、あお君も元気そうだ」  そして尚久は、しゃがんで自分を不思議そうに見る春久に視線を合した。 「春久だな、初めまして。僕は君の叔父さんだよ」 「そうだよ、パパの弟だからはる君の叔父様だよ」  蒼が横から言うと、春久の顔がぱーっと輝いた。 「おじちゃま! ぼく、はっくんだよ!」  可愛いなあ、そうかこの子が春久か、蒼の子供で、自分の血の繋がった甥。瞳がきらきらとしている。率直に可愛いと思う。 「そうか、はっくんだね、よろしく!」  そう言って頭を撫でてやると、嬉しそうに頷いた。

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