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第4話 1章 風を求めて
「明日はどうするんだ? 病院に来られるか?」
「そうですね、荷物を片付けて、午後から一度病院へ顔を出すよ」
「そうだな、明日はとりあえず部長以上に顔合わせをしよう。そのように手配しておくから、お前は病院に着いたら院長室へ来なさい」
尚久の正式な勤務は来週からになっているが、その前に病院幹部には紹介しておくといいとの考えだ。
「明日の夕食は外食にしようと予約をした。皆現地集合でいいか?」
今日は家で手料理の夕餉にしたが、明日は週末でもあり、外で豪華にとの高久と雪哉の考えだった。
「わーい嬉しいなぁ、私は直接行くわよ」
結惟が言うと、尚久も「僕も直接行きます」と答える。
「僕たちは一度帰って、はるを着替えさせてから行きます」
「おきがえ? どこいくの?」
「明日はお外でお食事。だからお着換えしてから行くよ」
「なにたべるの?」
「お寿司とか、色々あるよ」
「わーい、はっくんおしゅしだいしゅきだよ!」
久しぶり帰国した尚久のために、寿司を中心に和食の店にしたのだ。春久は、勿論さび抜きで、生魚は食べないが、お寿司は大好きなのだ。喜ぶ春久に大人たちもニコニコだ。
「じゃあ、僕たちはそろそろ離れに行きます。なお、今日はゆっくり休めな」
「なお君また明日ね」
「うん、ありがとう」
「バイバイ」
春久が手を振るのを、「バイバイ、おやすみ」尚久も手を振って応える。
三人が離れへ行くと、急に静かになる。やはり、賑やかさの中心は春久のようだ。
「急に静かになるね」
「全くだよ、大人だけだと静かなものだ。はるは、我が家の太陽だよ」
「天使かもね」結惟が言うと、「そうだな」と雪哉も同意する。つまり、太陽のような天使なのだ。
まだ半日も一緒に過ごしていないが、尚久もそれには同意する。そして、これだけ大人に囲まれて、可愛がられても、わがままでないことに感心するのだった。
やはり、優しく気立ての良い蒼の子であり、蒼が育てただけはあると思うのだった。
尚久は、北畠総合病院の前に佇んでいる。実は、病院に来る機会はあまりなく、留学以来初めてなのはとうぜんだが、それ以前も数えるくらいしか来ていない。
全貌を見ると、改めて個人病院にしては中々の規模だ。
中に入り院長室へ行こうと、案内板を見ていると、人とぶつかった。
「あっ、すみません、大丈夫ですか?」
ぶつかったのは、中高生くらいの少年だった。華奢な体型だ。大柄の自分とぶつかり、結構な衝撃だったろう。
「こちらこそ、すみません、大丈夫です」
そう言って、そそくさと行こうとする少年。ひょっとしてめまいがしているのか? 尚久は気にかかった。
「君、めまいがしてないか? 本当に大丈夫かな?」
「大丈夫です。診察も済んだので」
ああ、患者さんか。診察が済んだのなら大丈夫だろう。
「そうか、じゃあ、気を付けて帰るんだよ」
尚久が言うと、少年は逃げるように去って行った。少し、コミュニケーションにも問題があるのかな? まあ、知らない大柄の男は怖いか……尚久は自嘲気味に思った。
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