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第10話 2章 尚久と尚希

 尚久は、にっこりと微笑んで、尚希の頭を撫でながら言う。 「君の気持ちは分かるよ、喜んで手術を受ける患者なんていない。治るためにはそれしかないからと、自分から切望したって、不安があるのは当たり前だよ」  尚希には、頭に感じる尚久の手の温もりがじんわりと心地よい。尚久の言葉が、すーっと入ってくるように感じた。 「今君は、頭痛があるよね? めまいもするだろ? 目の前も、頭の中も、もやがかかったようだよね?」  頷く尚希。全くその通りだった。薬を飲めば少しは改善するが、完全に良くなるわけではない。尚久は、そのまま続けて話す。 「手術をすればそれらが、一挙に解決するんだよ。ぱーっと取り払われて、それこそ世界が変わるようにね」  もしそうなったら嬉しい。尚希は、僅かに笑顔になる。手術を、受けてみたい気持ちが芽生える。なんとくなくだけど、この先生なら大丈夫に思える。 「どうかな? 手術を受けてみる?」  尚希は、こくりと頷いた。しっかりとした意思を感じさせる頷きだ。  蒼はそれを見て、安堵すると共に、尚久に感心する。手術の腕だけでなく、医師としての患者への接し方も一流と言える。立派な医師になって帰ってきた。血は繋がっていないが、蒼は尚久を本当の弟のように思っている。何しろ、産まれてすぐの時から知っている。おしめを替えたこともあるのだ。 「そうか、良かった。先生も君の手術のことをずっと考えていたので安心した。それでは、早急にお母さんとも話したいけど、どうだろうか来てはもらえるだろうか?」 「母は忙しいから……どうしても、母が来ないとだめなんですか?」 「君は未成年だからね。保護者の承諾がいるんだよね。お忙しいとは思うけど、少しの時間でいいから、病院まで来ていただけないかな。君の受診に合わせなくても、一人で来てもらっても大丈夫だから」 「そうですか……分かりました。一応そのように伝えます」 「うん、よろしく頼んだよ。今日のところはいつものようにお薬を出すからね。気を付けて帰るんだよ」 「はい」尚希は、蒼と尚久に礼をして診察室を出て行った。コミュ障気味なところは感じられるが、礼儀正しい少年だ。 「なおく、尚久先生ありがとう」 「病院では、こうして二人の時も、なお君はだめですか?」  尚久は苦笑交じりに言う。なんだか蒼に尚久先生と呼ばれるのは、こそばゆい気持ちになる。 「癖が出るといけないから、病院では二人の時もそう呼ぶよ。そういうけじめは、副院長が厳しい。彰久先生はしょっちゅう怒られている」 「ふふっ、に、彰久先生らしい。私も気を付けます。で、彼の母親は来てくれますかね?」 「それが問題なんだよね……二、三日様子を見て、来られないなら電話を入れるよ。忙しい方だし、仕事中にはと思って、電話は遠慮してるけど、仕方ない」  せっかくなら、手術は早急にした方がいいのだ。母親の承諾を取るのにあまり時間を掛けたくないと思うのだ。

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