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第12話 2章 尚久と尚希
「おじちゃま、おかえりなしゃい」
「ただいま」
尚久が帰宅すると、春久が出迎えてくれる。春久は、誰が帰ってきた時でも、必ずそうるのだ。そんな可愛い甥っ子の頭を撫でてからリビングへ入ると、既に全員帰宅していた。兄たちも、いつも先ずは母屋にきて、夕食の後、離れへ行くのが日課になっている。
「今日は、次の手術が決まったようだな」
蒼から報告を受けていた雪哉の言葉に、尚久は頷く。
「はい、母親が来院して承諾をもらいました。日程も調整出来たので、来週火曜に決まりました」
「ああ、甲斐先生も安堵されていた。本当に安堵するのは手術後だが、お前なら大丈夫だろう」
尚久は深く頷いた。他の皆も頷いている。皆の信頼と、期待を感じる。勿論、それを裏切ることはないという、強い自信もある。
「それにしても、相変わらず母親は忙しい方のようだな」
「そうなんですよね、今日も慌ただしく来て、帰って行ったという感じでした。でも、その中で来たのは、やはり母親としての愛情があるのだろうと感じました」
蒼は、尚希の身の上に同情はしているが、母親に批判的な思いはない。むしろ、女手一つで大変だろうと、同情的な思いがある。
「仕事は編集者だったか、編集者とはそんなに忙しいものなのか?」
雪哉には全く未知な世界ではある。読書は好きだが、その裏の世界は知らない。
「そうよ、出版社は皆激務なのよ。特に編集は、担当の作家の都合もあるから、定時なんて存在しないって、出版社に勤めている人から聞くわよ」
史学科の大学院生の結惟が、雪哉の疑問に答える。結惟は、北畠家で唯一医師ではなく、文系の世界に進んだ。
「そうか、だとしたら手術の立ち会いもあんまり期待はできないな」
「それは、今日の面談で感じました。その時は、僕が立ち会います」
ああそうだろう、お前ならそうするだろうと思い、雪哉はねぎらうように蒼の肩に手を置く。こんなところも、蒼は自分と同じだと、愛情が湧くのだ。今や、本当の息子のように思っている。いや、むしろ実の息子たち以上の思いがあるかもしれない。
雪哉の人生にとって、一番の幸せは高久と出会い、結婚したこと。それは間違いないが、次は蒼と彰久の結婚だ。二人が、運命の仲で結婚まで導かれたのは、本当に宝幸だったと思っている。
蒼も彰久と結婚するはるか前から雪哉を慕い、憧れ、その後に続こうと付いてきた。だからこそ、雪哉は二人の結婚を心から喜んだ。自分の後継者は蒼だと思っているし、蒼もその期待に応えている。
同じオメガとして、アルファである息子たちに対するものとは違う思いというか、愛情があるのだった。
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