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第17話 3章 手術

 夕方、昼間の言葉通り、蒼が尚希の病室に来る。 「どうだい、問題ないかな」 「はい、大丈夫です」  蒼は、定時を過ぎて本来ならば帰宅する時間だが、尚希を思いここへ来た。夕食が終わり、落ち着くまで一緒にいてやりたいと思うのだ。 「そうか、良かった。そろそろ夕食だね。お昼ご飯美味しかっただろ? 全部食べたかい?」 「はい、美味しかったです。ほとんど食べました」  本当に美味しいと思った。学食とは比べ物にならない味だった。ただ、ピーマンは苦手で、それだけは残したが、言わないでおく。 「そうだろ、うちは食事に力を入れているんだ。患者さんは、食事が楽しみだからだね」  北畠病院の伝統と言ってよい。蒼自身、入院した時、美味しい食事が嬉しかったのを、今でも覚えている。  そこへ、「やあ! 来たよ」と、尚久も入ってくる。 「蒼先生も来てましたか。もう帰る時間ですよ」 「うんそうだけど、尚希君が食事して、落ち着くまでいようと思ってね」 「じゃあ、私がいるので蒼先生は帰って大丈夫ですよ」 「でも、尚久先生明日手術だから、早く帰って体を休めたほうが」 「ここにいるだけならリラックスできるし、私は若いから体力は十分です。蒼先生こそ、早く帰ったほうがいいですよ。はるも喜ぶでしょう」  今日は彰久がお迎えに行ってくれた。彰久も蒼の気持ちは理解している。帰宅後は、両親もいるし、結惟もいる。心配はいらないが、一緒にいてやりたいというか、一緒にいたいのが母の正直な気持ちではある。蒼は、ここは尚久に任せようと思う。 「そうかい、じゃあそうさせてもらおうかな。尚希君、先生帰るから。食事残さず食べて、ゆっくり眠るんだよ」  微笑みと共に、そう言って病室を出て行った。 「はるって?」 「ああ、春久っていってね、蒼先生の子供だよ。私には甥っ子になるね」 「まだ、小さいんですか?」 「三歳だよ、凄く可愛いよ。我が家の天使というか、アイドルだね。他が大人ばかりだから、皆から可愛がられまくってるかな」  そうなのか、蒼先生子供がいるんだ。皆に可愛がられてアイドルなんて、いいなあ。尚希は、まだ見ぬその小さい男の子を、羨ましいと思った。蒼先生は、さぞや優しいお母さんなんだろうなあ……。自分の母と比べると、羨ましさが増した。  夕食が運ばれてきた。サバの竜田揚げに、付け合わせの野菜、そして豚汁の献立。デザートにフルーツゼリーもついている。とても美味しそうだ。 「おっ、美味そうだな! さすがバランスもとれてるな。残さず食べろよ」 「あの、先生はご飯……」 「ああ、家に帰ってから食べるから」 「でも、お腹すきませんか?」 「大丈夫。ここへ来る前に、少し間食したから」  それを聞いて、尚希も安心したのか、「いただきます」と言って、食べ始める。  口数は少ないが、思いやりのある子だなと、尚久は思う。そして、美味しそうに食べる尚希に、食べ方のきれいな子だとも思う。見ていて、気持ちがいい。  母親は忙しくて放任状態のようだが、行儀作法は身についている。躾はきちんとしたんだろう。

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