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第27話 4章 北畠家

 尚希は、今日は道も分かるので、迎えはいらないと一人で来た。来ながら後悔した。やっぱり、この間みたいに、迎えに来てもらえば良かった。一人で尋ねるのは緊張する。  やっぱり、行くのやめようかな……尚希は迷いながらも、足を進める。しかし、その速度は段々と遅くなる。やっぱり帰ろうと思った時に、電話の着信。慌てて見ると、尚久だった。どきっとしながら、通話ボタンを押す。 「はっ、はい」 『私だよ、今どこだ』 「けっ、結構近くまで来ています」 『そうか、大丈夫か? 道に迷ってないかと思ってな』 「大丈夫です」 『そうか、じゃあ気を付けて来いよ』  尚希の迷いを断ち切るような明るい声だった。これでは、ここで帰るわけにはいかない。尚久は心を決め、北畠家へ向かった。  尚希が緊張の面持ちでインターフォンを押すと、ほんの三十秒ほどで、玄関が開く。尚久の笑顔に、ほっとする。 「こんにちは」 「ああ、よく来たな。入れよ」  すると、春久が走って出てきた。 「なっくん! こんにちは! あしょびにきてくれたの」 「はる君こんにちは。お邪魔します」 「おじゃましていいよ」そう言って、尚希の手を引いて、リビングへ連れて行く。尚希は、緊張が解れるような思いで素直に従う。  リビングには、雪哉と蒼がいて尚希を迎えてくれる。院長先生たちはいないのかな? とりあえずは良かったと、尚希は思う。  「じーじとパパはね、しょさいでおしごとだよ」  どうやら、次の彰久の手術の案件を話し合っているらしい。ほっとしながら、先日と同じように、尚希は春久の遊んでいる横にいる。やっぱり、いるだけ、見ているだけ。はる君楽しいのかな……まあ、楽しそうではあるな。 「はる君楽しそうだなあ。君が尚希君かい?」  重厚な男性の声に、尚希はびくっとする。 「はっ、はい。初めまして萩原尚希です」 「ああ、私は春久の祖父だ。そして」一緒に現れた彰久を見る。 「父です。春久と遊んでくれてありがとう」  やばい、院長先生と彰久先生じゃん。いきなりの登場って、心の準備ができていないと焦り気味の尚希に二人は和やかだ。二人とも、春久が尚希の側で、楽しそうにしている姿で、尚希に好感を覚えたのだ。 「はる君良かったな、いいお友達ができたな。良かったら、ゆっくりしていきなさい」  高久の言葉に、やっぱり僕、はる君の友達認定なんだと、尚希は少し現実を知るのだった。  まあ確かに、このハイスペックな面々の中で、子共は春久一人。僕の相手って、はる君だよなあ……と半ばあきらめのような気になる。しかし、尚希は、春久の相手が嫌とは思わない。ただ、一緒にいるだけだが、なんとなく楽しい。時折、春久が尚希を見てにっこり笑う。その微笑みは、とても可愛いなあと思うのだった。

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