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第34話 5章 爽やかな風

 九月も後半になって、尚久は尚希を「爽やかな風に当たりたい」とドライブに誘った。   爽やかな風? 先生とドライブ? 疑問はあるけど、断ることは考えられない。尚希は「はい」と答えた。 「どうした? なんか固くないか?」  緊張気味に助手席に座る尚希へ、尚久は問う。 「いや、別にどうもしてません」 「ふっ、そう緊張するなよ。リラックスするためのドライブなんだから」  そうか、先生はリラックスしたいのか……だからドライブなんだ。 「もうすぐ夏休みが終わるだろ?」 「そうですね、終わったらすぐテストだから、あんまり息抜きできなかった。もう終わるのって感じ」 「そうだろうと思って、連れて来たんだよ」 「うん、ありがとう」  尚希は、アルバイトをしているわけではないが、勉強の課題が目白押しで、中々に忙しい学生生活を送っていた。  尚久もそんな尚希を気にかけながら、自身も忙しく、誘う機会がもてなかった。  入学前にレストランへ行った後、二回ほど外食には誘ったが、それがせいぜいだった。  今回、漸くお互いの都合があって今日のドライブになった。正に、夏休み終了間際だった。 「お前は真面目な学生生活を送って感心だなあ」 「僕、真面目かなあ」 「真面目だろ」  尚希には、自分が真面目だとの自覚は全くない。しかし、尚久はじめ、北畠家の人達はそう評価していた。だからこそ尚希を、誘いもし受け入れてきたのだ。それを尚希は自覚していない。尚久にはそれも分かっていた。徐々に尚希へと目が向く所以でもあった。  自覚が無いから好ましい。けど、自分の長所を教えてやりたい気持ちもある。 「お前は、多分自分が思っている以上に真面目だよ」 「そうかなあ……」 「そうだよ」  断言されると、そうかなあと思えてくる。それが不思議だった。 「真面目かあ……ただいっぱいいっぱいなんだけど」 「真面目なのは長所だけど、うまく息を抜いたりが出来ないのは短所になるかな。心配事やストレスは発散させたほうがいいからな」  それを言われると、確かに自分はそうだと思う。結構ため込みやすい。大学でも、未だ親しい友達はいない。人から話しかけられると、どう答えればいいか、おどおどしてしまう。ましてや、自分から声など掛けられない。  尚希は未だに春久が懐いてくれるのが不思議だった。尚久からも、蒼からも、それは尚希の人柄ゆえだと言われる。子供は鋭い。意地悪な人には懐かない。つまり、尚希君は優しいから、懐くんだよと。  そうかなあとは思うが、懐かれるのは嬉しい。尚希も春久が好きだ。今は、なっくん、はっくんの仲だ。

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