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第45話 7章 初めての恋心

 誰もいない家に帰り付いて、ソファーに崩れ落ちるように体を横たえる。  そのまま、暫くぼーっとしていた。  気づいたら部屋は真っ暗だった。日が落ちたのも気づかずにいた。  尚希は、よろっと起き上がり照明を付ける。  部屋は明るくなったが、心は暗いままだ。  先生に会いたい……せめて、声が聞きたい……。  悶々と考えていると、スマホが鳴る。先生だ!  「せっ、先生!」 『ああ、私だよ。どうした? そんなに慌てて』 「あっ、いや、別に」 『そうか、明日定時なんだ。大学へ迎えに行くよ』  尚久が、定時に終業出来る時は、大学まで迎えに来てくれる時が多い。女学生に見られたのもその時だったのだろう。 「えっと、明日は家の方が」 『――? 家の方がいいのか。それじゃあ、六時くらいかな、着いたら電話するよ』 「はい、分かりました」  短い会話だった。何故、家の方がいいいのか、聞かれることも無かった。しかし、尚久には尚希の常とは違う様子は、しっかりと伝わっていた。 「何があった?」  食事をして、帰りの車の中で聞かれる。食事の間は、とりとめのない会話だった。だから油断した。尚希は慌てた。 「なっ、何って」 「何かあったんだろう。お前から言わないかと思ってたが、どうやら言いそうにない。何があった? 思ってる事は言わないと、ため込むと落ち込むぞ」  な、なんで先生には分かるんだろう……。尚希は、うつむいたまま言葉が出ない。 「話して見ろ」  目立たぬ場所で車を止めて、尚久は、覗き込むようにして問う。言わないと、許されそうにない。尚希は観念した。 「えっと、……大学の女の子たちが、先生を紹介して欲しいって」 「紹介って」 「先生がハイスペックだから、お近づきになりたいって。玉の輿にのりたいみたいな」 「なんだよ、それ。断れよ」 「断った。断ったけど……」 「なんだ、まだなんか言われたのか?」 「僕も玉の輿狙っているのかだって。でも、地味なベータが相手にされるわけないって」 「相手にしてるじゃないか」 「わ、若い体だけが目当てで……いっ、一回寝たら捨てられるって……」 「お前も、私のことそういうふうに思ってるのか」  尚希は慌てて顔を、横に振る。 「そっ、そんなこと思ってない」 「だったらいいじゃないか。そんな女の子たちの言う事、無視してればいい」  尚久の力強い言葉に安堵する思いもあるが、尚希にはまだ、心に引っかかることがある。 「うん……」 「なんだ? まだ何か言われたのか?」 「言われたっていうか……先生は僕の何かな……って思って。その子たちに、最初先生の事彼氏かって聞かれたから」 「肯定しなかったのか?」 「う、うん」 「ふっ、だから紹介しろって言われたんだよ。彼氏だって言ってれば、それで終わってたろ。その子たちも、諦めたんじゃないのか」 「でっ、でも……かっ、彼氏なの……」 「そうだろ。こうして時々デートしてるだろ。そういう相手の事を普通は彼氏って言うんじゃないのか」 「デっ、デートなの!?」 「お前、なんて思ってたんだよ」  なんてって……何も思ってなかった。デートだったのか――尚希は混乱して、言葉が出ない。

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