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第47話 7章 初めての恋心

 ベッドに横になっても、眼はさえたままだった。  悶々として眠れない。  先生が僕のこと好きなんて……未だに信じられない思いだ。  で、でも本当なら嬉しい。  本当だよね……先生は嘘をつくような人ではない。  でも、どうしてだろう? 僕のどこが良いのだろう……全然分からない。  女の子たちの言葉が頭に浮かぶ。だが、それは明確に否定してくれた。  体目当て……それは違うと思う。そう思いたい。先生はそんな人ではない。  第一、自分の体にそんな魅力があるとは思えない。単に若いだけだ。  尚希は自分の唇に触れる。  今日、尚久に触れられ、舐められ、吸われた唇。未だ、熱を帯びているようだ。  尚久の唇は熱く、柔らかだった。後は……覚えていない。  キスって、大人のキスって……ああいうのなんだ。  先生は、今までどれくらい経験したんだろう……三十過ぎた大人の男性なんだから、一杯経験したんだろうな……。  それに比べて自分の経験値の無さ。  でも、それでいいと言った。自分が教えるからと……。  先生を信じよう。  尚希の結論はそれだった。そう思ったら、少し安心できる。安心できると、漸く眠たくなる。  尚希はそのまま眠りについた。夜はかなり深くなっていた。 「あっ、なっくん!」  尚希が北畠家の門をくぐり抜けると、離れの方からきた春久に声掛けられた。蒼も一緒にいる。 「はっくん、蒼先生、こんにちは。離れにいたの?」 「うん、宿題してた。終わったから母屋に来たよ」 「そうか、はっくんは偉いね! 勉強頑張ってるんだ」  満面の笑みで頷く春久と手を繋いで、母屋に入る。 「尚希君、何か良いことあった?」  蒼がにこやかな笑顔で聞く。 「えっ、良いこと!?」 「うん、なんだか今日はいつもより明るいっていうか、幸せそうだなって思ったから」  そっ、それは――尚希は戸惑った。なっ、なんで分るんだろう――。尚希はドギマギする。  答えない尚希に、蒼は気を悪くしたふうでもなく、ニコニコしている。  無論、蒼が尚希の秘密を知っているわけではない。  そこへ、雪哉も姿を見せる。 「雪哉先生、こんにちは、お邪魔しています」 「尚希君、いらっしゃい」  雪哉が、尚希の顔をまじまじと見る。なっ、何……。 「何か、良いことあった? 顔が穏やかで、幸せそうだ」 「母さんも同じですね。僕も同じことを思って聞いたところです」  えっ! な、なにこの人たち……なんで分るんだ! どっ、どうしよう……。 「あっ、そうだ! この間のテストの点が良かったので、多分……だからだと思います」 「そうか! そんなに良かったの? 凄いね、頑張ったんだ!」 「なっくん、すごい~」  蒼と雪哉だけでなく、春久にも褒められて、面映ゆいが、尚希はほっとする。これで、ごまかせる。  尚久とのことを皆に、話せるほどの勇気は、尚希にはこれっぽっちも無い。 「何が凄いんだ?」  尚希の来宅を察した尚久が、リビングへ入ってくる。 「尚希君、テスト頑張ったんですって。良い成績だったようだよ」  尚久の登場に、更にドギマギして、咄嗟に声の出ない尚希に代わって蒼が応える。 「へーっ、そうか偉いじゃないか」  そう言って、尚希の頭を撫でる。尚希は、益々赤くなる。尚久の手の温もりが熱くて、心臓に悪い。

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