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02 出会い

ようやく会社の前にたどり着いた。先程は少し距離があり、多少の威圧感で済んだが、いざ目の前に立ってみると、とんでもない会社に入ってしまったのだな、とさえ思う。そんなことを思いながら、受付に向かう。 自動ドアが開き、新しい生活の幕が開けるのだな、と翡翠はなんとなく期待を胸に忍ばせた。ロビーから漂う清潔な香りは翡翠の心に少しだけ余裕を与えてくれた。後ろからすれ違う人を横目に早速カウンターに座っている担当者に自分の配属先のオフィスの場所を聞く。 エレベーターを待っていると3人ほどドアの前で待っていた。三人のうち二人は普通の人間だったが、一人だけやけに目を引く半獣の男性がいた。おそらくイヌ科の生物の方なのだろう。ピンと立った耳とふさふさの尻尾がどことなくかわいい。それも相まってか、その人自身も優しそうな風貌をしていた。 (緊張、するな……)  待っている間も、これから起きることに期待と不安が募る。生憎、立ち回りだけは人一倍の自身があった。少しでもトラブルを避けようとする間に培われた数少ない翡翠の能力だった。 エレベーターに乗ると、遅れて数人ほど乗ってきた。まだ出社時間のピークを迎えていないのだろう。結構な人数が乗れそうなエレベーターにまだ余白が残っていた。あとから乗ってきた人たちを避けるようにして端によると、いつのまにか階の操作パネルの近くに流れ着いてしまった。先程の半獣の人がなんとなく困っていそうだったので声を掛ける。個室が広いのは歓迎だが、パネルから遠いのは難点だな、と翡翠は静かに思った。 「あの、何階ですか?」 「13階です」 「わかりました」 自分と同じ階を言われて少しびくっとなったが、悟られまいと早急にボタンを押す。 カチ、と軽い音がして押したところが温かいオレンジ色に光った。すると、誰かが閉じるボタンを押したのだろう。静かな音を立ててドアが閉まる。 エレベーターの中はひどく窮屈だった。あまり会話は好ましくないというイメージがあり、口を開くのはなんとなく避けた。本当は半獣の人と会話がしてみたかったが、お互い初対面だし、ということもあり中々言い出せなかった。 「降ります」 目的の階に着くと、半獣の人が申し訳無さそうにして先に出た。後に続くように翡翠も急いで出て、これから自分が毎日通うフロアに足をつけた。なんだか高そうなカーペットをこのまま土足で踏んでも良いのだろうか、などとどうでもいいことを考えながら歩く。 「ねぇ、君さ。新入社員の子、だよね?」 「あ、はい!深山翡翠と申します。」 「そう。新入社員控室、ここだから。」  さっきの半獣の人が案内してくれるとは思わなかった。話したいと思っていた人と話せて満足だった。そして、翡翠はなんとなく、見覚えのある人のような気がして少しモヤモヤするのを抑えられなかった。 「じゃあ、またね」 「は、はい!ありがとうございました。」  翡翠の感謝を背で受け取ると、そのまま半獣の人はスタスタと彼のオフィスに行ってしまった。行き先は恐らくこれから翡翠が向かう場所と同じ。しかし、翡翠も今からの事に真剣に目を向けなくてはいけない、と思い直し控室のドアを引いた。

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