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四十三 地元でカノに逢う

『所用で清の会社の近くに行くんだけど。逢えたりする?』  というメッセージに、清は驚いて目を丸くし、嬉しさのあまり跳び跳ねた。  いつもなら週末、店でしか逢ったことがない。同伴やらデートやらはしているが、それ以外――つまり、プライベートで逢ったことはなかった。 (カノくんに逢えるっ!!)  嬉しさのあまり、その日は上機嫌で、同じ寮に住む同期の仲間も、職場の同僚も、怪訝な顔をしてたが、気にすることじゃない。  大事なのは、カノに逢えると言うことだ。 (こんなところに用事って、何だろう。ああ、楽しみ。早く会社終わらないかな)  カノとは、定時退勤後に駅で落ち合うことになっている。今日は門限を越える手続きもした。食事をする予定ではあるが、もしかしたら|ある《・・》かも知れないので、準備しておく。  カノとセックスするようになって、清の身体は変わってしまった。太くて堅いモノで貫かれることが、気持ち良くなってしまったし、乳首なんて、性感帯じゃなかったはずなのに、今では服が擦れるだけで感じてしまう。  女の子にあれこれしたい欲求はすっかり鳴りを潜め、いまはカノにあれこれして欲しくて堪らない。  最近では――結腸を貫かれる感覚に、嵌められてしまった。そんなところで感じるなんて、我ながらヘンタイじゃないか想うが、快楽には抗えなかった。  奥を突かれると、頭がおかしくなってしまう。さらに奥をぶち抜かれると、自分ではどうしようもないほどの快感に、飲まれてしまう。入ってはいけない部分を責められる怖さと、それ以上の快感。  解りやすく、清はハマっていた。 (まだ道具は慣れないけどさ)  バイブやらパールの気持ち良さは知ったものの、自分で挿入するのは難しい。角度によっては痛いので、怖じ気づいてしまって入れられない。  だが、カノに逢えるのは週末だけだ。そうなると、逢えない日に持て余すことになると、清は困ることになる。  以前はグラビアアイドルやセクシー女優の写真で、抵当に性器を弄っているだけで良かったのに、今は違う。  カノの手や舌、肉棒の感触を思い出しながら、乳首やアナルに触れないと、満足できなくなっている。それでも満足できなくて、結局カノが欲しくて堪らなくなる。  カノは、依存性の高いクスリのようだ。 (ま、まあ、もちろん、逢えるだけで嬉しいんだけどっ)  ただでさえ、プライベートの時間を貰えるのだ。色々欲しがったりするのは、贅沢というものだろう。厚かましいタイプの清だが、カノ相手だと遠慮がちだ。嫌われたくない。  ああ、楽しみだ。そう思いながら、清は仕事に励むのだった。    ◆   ◆   ◆  駅前広場で待つカノの姿を見つけ、清は感慨深い想いになった。カノが自分の街に居る。とんでもないことだ。  清がひたすら眺めているのに気づいて、カノが怪訝な顔をして近づいてきた。 「よ。なんだよ、清?」 「カノくんって実在してたんだぁ……」 「何を言ってるんだ? お前は」  カノがここに居るのが、不思議でならない。萬葉町の妖しい空気の中にいる『ホストのカノ』と、地元の町にいる『カノ』は、少しだけ雰囲気が違う。 「今日、雰囲気違うね」 「そら、カラースーツだのツヤツヤしたシャツだの着てられねえよ。おかしいか?」 「めちゃくちゃ、カッコいい! あれ、でも私服デーの時とも、ちょっと違うね?」 「あれはホスト・カノのビジネス私服だな。チャラチャラした服は好きじゃない」  今日の装いは、全体的にグレーで纏まった、落ち着いたコーディネートだ。モデルのようではあるが、ホストっぽさは薄い。 (ただのイケメン。最高かよ)  カノが粉物を食べたいと言うので、近くにあるお好み焼屋へ行く。ビールで乾杯して、焼けるのを待ちながら軽く雑談する。 「こっちに来ると思わなかった」 「オレも。こんなに近いとは思わなかった。夕日高校ってあるだろ。そこの先生に、用事があって」 「えーっ。夕日高校ってあれだ。うちの寮の隣だ」 「マジか」  まさか寮が隣だとは思っていなかったらしく、カノも驚く。  なんだか縁があるようで、嬉しい。 「なんだか、こうしてると、清が生活してる町なんだなって、ちょっと不思議な感じだ」 「っ……、カノくんでも、そういう風に想うんだね」 「まあな。地元は? 近いの?」 「近いと言えば近いけど。萬葉町のほうが気持ち的にちかいかなぁ? 道がないから。南の、もっと東京湾よりの方」 「あー、なる」  他愛ない話をしていても、なんとなく自分のことや地元の話が多いのは、いつもとは違う場所だからだろうか。  今日みたいな奇跡、普通だったら、起こらない。 (カノくんが同僚だったらな――ああ、後輩かな?)  そんな妄想をしていると、ビールを啜りながらポツリ、カノが呟く。 「オレも会社員だったら、清みたいな感じだったかな」 「―――」  同じ妄想をしていたことに、きゅんと胸が疼く。同じ気持ちで、いてくれたのだろうか。 「カノくんほどのイケメン、そうそう居ないけど」 「そうでもないだろ、お前の寮、結構レベル高いぞ」 「ええー?」  カノには以前、寮がどんなところなのか聞かれて、写真を見せたことがある。その時も、「顔が良いヤツが多い」などと言っていたが、清にとってイケメンはカノだけだ。 「面食いのクセに」 「カノくんのお顔が一番好き」 「顔だけかよ?」  カノがニヤニヤ笑う。 「っ……。ちょっと意地悪なとこも、エッチなとこも、全部、好きだけど……」  何を言わせられているんだろう。地元なのに。顔が熱い。 「っと、ところで、明日は仕事でしょ? 最終で帰るの?」 「いや。清は、門限あるんだっけ?」  カノの言葉に、ジワリ、熱が浮く。 「――門限は、大丈夫……。申請したから……」  ああ。これでは、カノに抱いて欲しいと言っているようなものだな。と、清は俯いて、チラリとカノを見上げる。 「期待してる顔」 「い、いいだろっ」  カァと顔を熱くする清に、カノは笑いながら瞳に獰猛さを滲ませる。 「じゃあ、期待に応えないとな」  というカノの言葉のせいで、ちっとも食べた気持ちにならなかった。

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