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四十七 清を探して
身体がぐらぐらと揺れる。頭がボンヤリして、思考がはっきりしない。
『なにがメンタルエースよ』
女の声が耳に木霊する。近くで喋っているはずなのに、どこか遠くから聞こえるような気がした。
(なん……身体が……)
身体が異常に重い。酷く眠くて、身体がいうことを聞かない。青いカクテルを飲んだあたりから、意識が判然としなくなった。気持ち悪い。吐き出してしまいたい。
『コイツか?』
男の声が聞こえる。ボンヤリした視界に映った男に、見覚えがあった。腕にタトゥーの入った金髪の男。そのタトゥーに、見覚えがある。
(……こい、つ……ソープで、俺をだました……)
半グレだと言っていた、清を美人局で騙そうとした男たちだ。よく見れば、あの時の男たちが集まっている。女の方は――理恵、だろう。
『ホスト狂いもほどほどにしろよお?』
『うるさいわね。それより、ちゃんと準備してあるんでしょ』
『任せとけって。素人使ったレイプ動画も、裏サイトじゃそれなりに需要あるからよ』
『じゃあ、さっさとして。カノに見つかる前にやっちゃってよ』
「――…ぁ」
男たちの会話に、清は自身の身に起きようとしていることを察した。女の指示で、これから清は輪姦される。それを、動画に撮られるらしい。
ゾク、と背筋が震える。
夏音以外の誰かに、触られたくない。夏音に、そんな姿を見られたくない。
恐怖で、身体が震える。
「い……、かの……」
うわごとのように名前を呼ぶ清に、恵理が苛立ってヒールに先端で蹴りを入れる。痛みに呻く清に、しつように攻撃する恵理を、赤い髪の男が止めた。
『マァマァ、落ち着けよ。今からたっぷり、痛めつけてやるからさ』
『始めるぞ』
男が清のシャツに手をかけた。荒々しくシャツが引きちぎられ、ボタンが飛んだ。
◆ ◆ ◆
消えていく車のテールランプを見送って、夏音は壁を殴り付けた。
「くそっ!!」
ガツ、と鈍い音が響き、指に血が滲む。その様子に、北斗が眉を寄せた。
「おいカノ。落ち着け」
「落ち着けるかっ! 清が拐われたのに!」
「だから、落ち着けって言ってんだろ!」
珍しい北斗の怒鳴り声と、胸ぐらを掴む行動に、夏音はグッと込み上げるものを押しこらえた。
「アイツら、『ピーチパラソル』に出入りしてたやつらだ。見覚えがある」
「なに……?」
北斗の言葉に、夏音は顔をしかめた。『ピーチパラソル』というのは、『ブラックバード』に程近い場所にあったソープランドである。清が美人局に遭い、違法営業しているのを夏音が地元のヤクザである『白桜会』に告げておいた店だ。結果として、今はソープランドとしては営業していない。看板は残っているものの、空き店舗の状態だ。
北斗によれば、営業していないはずの店舗に、恵理と男たちが出入りしていたらしい。
「――蝎会の連中か……」
蝎会というのは、かつてこの街にあったアクラブというクラブの経営に関わっていた連中の、残党が集まって出来たという、半グレ集団だった。小さいながら、詐偽やら違法営業やらで小金を稼ぎ、暴力をちらつかせる。そんな連中だた。
ゾクリ、夏音はうすら寒くなる。蝎会の連中は何をするか解らない。仁義を重んじるヤクザと違って、素人相手にも何をするか解らない怖さがあるのが、半グレだ。
青ざめる夏音に、店の方からアキラが駆け寄ってきた。
「カノ。恵理さん、マークしてたから、ある程度調べてるよ。これ」
と、書類の束を差し出す。
恵理の勤務している風俗店、出入りしている場所、関係者。おおよそ行きそうな場所が、把握されていた。
学生のような風貌から、マークしていた。資料をみれば、まだ十九歳だ。店では売春を斡旋していたらしい。真っ黒だった。
「サンキュー、アキラ!」
「待て、僕たちも行く!」
今すぐ走り出しそうな夏音を、北斗が止めた。アキラも頷く。夏音は唇を結ぶと頷いて、「頼む」と呟いた。
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