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四十八 太陽の下を

 裸にされ、ベッドに転がされる。清は自身が貞操の危機にさらされている自覚はあったが、抵抗できるだけの力がどうしても入らなかった。  男たちが機材で清を取り囲む。ベッドの周囲には無数のカメラと照明が設置されている。手慣れた様子に、清は彼らが常習的に犯行を行っているのだと察した。 「本当にあのホストが、入れ込んでんのか? 結構ブスだぞ」 「平均だろ。スタイルは悪くねぇ。マァ、ゲイウケは悪そうだが」  へへ、と下卑た笑いを溢しながら、清を品定めしていく。男の手が触れるのが、気持ち悪かった。 「えーと? キヨシくんだっけ? 今から、気持ち良くなるお薬あげるからねー」 「う、ぃ……」  声にならない抵抗が漏れる。男が笑いながら、何かカプセルを飲ませた。恵理がたばこを吹かしながら呆れた声を漏らす。 「そんなもの必要? レイプ動画でしょ?」 「キメセクでヒーヒーいってんのが、ウケんのよ。ゲロ吐きながら喘ぐ、趣味悪いヤツ」 「最低ね」  最低と言いながら、恵理は笑っている。  何か変なものを飲まされた。吐き出したくて咳き込んだが、喉の奥からはなにも出てこない。 「げっ、げほっ、えっ!」  眦に涙が滲む。吐き出したくて口に指を突っ込んだのを、男が掴んだ。 「おっと。困るよぉ、男優さん。おい、カメラ回せ」 「ほーい」  手錠をかけられ、ベッド柵に繋がれる。身動きが出来ない恐怖心に、心が冷えた。 「や……、だ」 「恨むなら、あのホストを恨めよ?」  ニヤニヤ笑いながら、男が清の頬を叩いた。 「づっ……!」  夏音を恨むなんて、あり得ない。男を睨み付けた清に、恵理が苛立った様子で近くにあった物を投げつける。 「ムカつく! その目! 男の癖に、あたしのカノを誘惑して!」  許さない。そういって、腕を振り上げたのを、男が止めた。 「オイオイ、もうカメラ回ってんだ。編集面倒だから、大人しくしておけよ。嫌なら、出ていきな」 「チッ……」  恵理は苛立ちのまま、扉を荒々しく開いて出ていってしまった。室内には、清と男たちだけになる。 「仕切り直しだ。おら、こっち見ろ。ハハ、薬が効いてきたか?」 「ぁ……、う」  呻きながら、清は顔を向けた。焦点が合わない。吐き気が酷い。 「気持ちよーくしてやるから、安心しな?」  笑いながら、男がローションを身体に掛けた。  ビクン! 肌を滑る感触に、身体が跳ねる。異常な快感に、戸惑って視線がさ迷う。 「お? 感度良いねえ……。もしかして、身体の良さで、あのホスト落としたの?」 「ひぁ……、う……っ」  つつ、と指先が胸を滑る。気が狂いそうな程の快感に、声が勝手に漏れ出た。 「ひゃ、だぁ……、かの、夏…、あ、あ……っ」  夏音じゃない誰かの手で、感じているのが、信じられない。自分の身体が、自分の物ではないような気がして、恐ろしくなる。 (ヤダ、ヤダ――!)  拒絶に、身体が震える。突如、嘔吐した清に、男が顔をしかめて反射的に清を殴り付けた。 「くそ、コイツ! 吐きやがった!」 「うげ、げほっ、ぐっ……」  呻く清に、さらに男が頬を叩く。頬が、ジンジンと痛む。涙で視界が歪んだ。 「最悪だぜ……。オラ、まだおねんねには早いんだよ」 「んぐ」  顎を捕まれ、顔を向けられる。男の額に青筋が浮かんでいた。  無事では、済まないのだろうな。と、本能が理解する。 「もういい、ぶち犯して大人しくさせろ」  と、男が告げた時だった。 「な、なによ!」  ドア向こうで、恵理が叫び声を上げた。にわかに騒がしくなったことに、男たちの意識が外を向く。 「何事だっ!? うっ!」  男が立ち上がり、ドアに近づくと同時に、ドアが開け放たれた。そこから、夏音たちがなだれ込んでくる。 「清っ!!!」  夏音の声に、ボンヤリした意識を、そちらに向ける。夏音は拘束された清を見て、一瞬で頭を沸騰させた。 「テメェ……らぁ!」  叫びと同時に拳が放たれ、男が飛んだ。北斗が一緒になって男たちを蹴散らす。  アキラは男の持っていた鍵を手にすると、清の拘束を解き、バスタオルで体を包んでくれた。 「あ、あ……」 「もう、大丈夫……なにか、飲まされた?」 「わ、かんな、薬……」  その言葉に、夏音は男の持っていたカプセル薬を手にする。包装にはなにも書かれていない。 「おい、これはなんの薬だ!」 「ひっ、た、ただのセックスドラッグだよっ……!」 「害はねえんだろうなあ!?」 「な、ないはずだ! 俺も普段から使ってる!」  夏音の剣幕に、男が震える。 「カノ、その薬かして。調べられる病院あるから……。念のため、連れていこう。吉田さんは、頑張って水飲んで」 「あ、あ…。夏音……」 「清っ……!」  夏音に抱き締められ、ホッと力が抜ける。  ここは任せて良いと北斗が言うので、夏音は頼む、と言って清を連れ出した。 「カノ……! なんでよ!」  恵理が叫ぶ。夏音は彼女を睨んだだけで、何も言わなかった。    ◆   ◆   ◆ 「殴られた?」 「ん……、ちょっと」 「……ゴメン。オレのせいで」  病院のベッドに横たわる清に、夏音が項垂れる。簡単な処置を受け、清は点滴に繋がれていた。外傷は大きくないし、薬もほどなく抜けると言う。点滴が終われば、帰っても良いようだ。 「夏音のせいじゃないだろ。悪いのは――恵理ちゃんだし」 「けど」 「そうなの」  清がハッキリと告げるのに、夏音は押し黙った。 「でも――ちょっとだけ、思った」 「なに」 「夏音、モテるから。彼氏としては、苦労するかもって」  そういって笑ったら、傷が痛んで、清は「イテテ」と顔を歪めた。 「オレ、やっぱりホスト辞めるよ」 「夏音」  ホストを辞めるという話は、既に聞いていた。だから、驚きはなかったが、きっかけが自分になってしまったことに、戸惑いを覚える。  天職だと、思っていたから。 「やっぱ、愛してるとか、可愛いとかは、清にしか言いたくない」 「夏音……」 「普通に、なりたいんだ。清と一緒に、昼の世界で生きてみたい。お酒と女の子ばかりの世界じゃなくて、太陽の下を並んで歩きたい。嫌か?」 「っ、嫌なわけ……」  夏音の唇が、優しく触れる。  気がつけば二人とも泣いていて、額をくっ付けあって、静かに涙をこぼした。

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