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第6話
テレワーク中、俺のデスク代わりはダイニングテーブルだ。
オープンしてから3ヶ月が経過した物件の収支を確認し、管理部門に引き継ぐための書類を作成していると、空腹を覚えた。
「腹減った…もうすぐ13時か」
以前は朝食を抜くことが多く、空腹感を感じることはあまりなかった。
しかし最近、三食きちんと摂るようになってからは、空腹を強く感じるようになった。
これも健康的な生活のおかげだろう。いや、あいつのおかげか。
俺は家用の片側だけの松葉杖を使い、冷蔵庫に向かう。
黒岩が用意してくれた昼ごはんがそこにあった。
今日は焼きそばだ。レンジで温めながら、サラダと箸を先にテーブルに運ぶ。
レンジが鳴り、焼きそばを取り出すと、猫たちがどこからともなく現れて、テーブルの上や隣の椅子に飛び乗ってきた。
「これは俺のだぞ。あげないよ」
可愛く鳴いても、昼は食べないと聞いているからと、猫たちに言い聞かせた。
やがて、諦めたのか、テーブルで寝転がる彼らを撫でながら俺は思った。
「お前たちは幸せもんだな…面倒見のいいご主人様がいて。――俺も、か」
朝は起こしてくれるし、階段は肩を貸してくれるし、着替えも用意してくれる。
朝のやり取りを思い出しながら、俺は焼きそばを一口食べた。
「うまっ」
そう呟きながら、俺は一人、黙々と昼ごはんを楽しんだ。
夕方、19時を過ぎた頃、今日の仕事を終わらせることにした。
パソコンを閉じると、自然と眠気が襲ってきた。
スマホが鳴り、黒岩からの連絡が入っていた。
「これから会社を出る」とのことだ。
「まめだな」
そう思いながら、俺はソファに横になり、目を閉じた。
しかし、猫たちの声で起こされる。
いつの間にか、俺の体の上に乗り、激しく鳴いていた。
「ちょっ…こらっ!」
頭を踏まれ、目が覚めた。
これが、ご飯の催促だと気づいた俺は立ち上がろうとするが、猫たちが足元に擦り寄ってきて、思うように歩けない。
「待て待て、危ないって…うわっ!」
バランスを崩し、尻もちをついた。松葉杖が倒れる。その音に驚いた猫たちは無事に避けていたので、俺はほっとした。
「どうした?すごい音がしたぞ。大丈夫か!」
黒岩が帰ってきて、俺に駆け寄ってきた。
「大丈夫。あっ、おかえり」
「ただいま」
「猫のごはんはどこにあるんだ?こいつらに催促されちゃってさ」
黒岩の助けを借りて立ち上がり、キッチンに向かう。
「猫のごはんはこの棚に入っている。乾燥はタイマーでセットされているから、二日に一回補充するだけだ」
「へえ、レトルトもあるんだ。味も色々あるな」
「そう。あげてみるか?」
「いいの?」
「もちろん。朝はマグロだったよ」
「じゃあ、カツオ」
「カツオはアンザイのお気に入りだよ」
「へえ…ミツイは?」
「チキンが好きだな」
「ミヤギは…こいつ、食いしん坊だよな。気づいたら他の皿まで手を出してるし」
「そう、ミヤギは好き嫌いがなくて、成長も早いからな」
俺は渡された食器にレトルトを入れ、トレイに乗せて猫たちの定位置に運んだ。
「持てるか?」
「大丈夫」
猫たちはすぐにすり寄ってきて、皿に顔を突っ込んだ。
可愛いなとおもった。
「これから猫の夕飯お願いしていいか」
「任せろ」
俺たちは顔を見合わせ、自然と笑みがこぼれた。
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