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第7話
病院の診察室で、経過観察の診察を受けていた。
担当医から「早い回復です。大体3週間くらいかかるのに、ギブス外せますよ」と告げられた時、俺は思わず俯いた。
「黒瀬さん?」
「よ、よかったです。ありがとうございます」
心の中で湧き上がったのは、安堵よりも、どこか寂しさのような感情だった。
これで黒岩に甘える理由がなくなる――その現実が、俺を少し戸惑わせた。
診察が終わり、病院を出ると、夕暮れが町を優しく包んでいた。
一人で歩く帰り道、黒岩の世話焼きぶりを思い出す。
正直なところ、彼の手厚い世話に甘んじていた自分がいたことに気づいて、俺は小さくため息をついた。
「もう、家に戻らないとだな」と、心の中で呟く。
家に帰ると、黒岩が玄関まで迎えに来てくれた。
「おかえり。ギブス外れたのか」
「うん」と答えながら、リビングへ向かった。
ソファに腰を下ろし、俺は意を決して言った。
「家に戻るよ」
「えっ?」
黒岩の声には驚きが混じっていた。
「今までありがとう。お礼じゃないけど、飯食べにいかない?奢るよ」
彼は黙り込んだ。重い沈黙が流れた後、俺は続けた。
「夕飯の準備してた?なら、明日とか――」
その時、黒岩が急に俺の腕を掴んだ。
「行くな」
「え?」
「ここで一緒に住まないか?」
彼の提案に、俺はただ驚くばかりだった。
「え……?」
「お前の世話をさせてほしいんだ」
彼の声には真剣さが滲んでいた。
俺は言葉を失った。
状況が飲み込めず、ただ混乱していた。
「お願いだ」と彼は続けた。
「えっと……え?」
俺は混乱の中でどう答えるべきか考えていた。
「俺は世話がしたくて猫を引き取ったんだ。でも最近、猫たちも手がかからなくなって、物足りなく感じていたんだよ」
「世話がしたいのか?」
俺は彼の言葉に半信半疑で聞き返した。
「そうだよ。だから、もう少しお前の世話をさせほしい」
「世話がしたいなら、恋人の世話をしろよ。彼女いないのか?作れば?」
「簡単に言うな」
「お前なら簡単だろ」
「――わかった。彼女ができるまで世話をさせてくれ。他に頼める奴がいないんだ」
黒岩の気持ちは全く理解できなかったが、彼の提案はとても魅力的だった。
俺の欠点や弱さを受け入れてくれた彼に対して、俺は少しずつ心を開いていたのかもしれない。
「でも、それって俺にしかメリットないけど?俺、本当はすげえわがままだからな。本気出したら大変だぞ」
「嬉しいよ」
黒岩は微笑んだ。
俺たちの共同生活が始まった。
その瞬間、俺の中で何かが少しずつ変わり始めていた。
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