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第10話

やり遂げた安堵感と共に、接待で飲まされた酒がじわじわと回ってきた。 感染症の上司の代役で急に任された接待だったが、無事に終えたことにホッとする。 まだ電車があるうちに駅に向かって歩き始めたが、足元がふらついている。 だいぶ飲まされてしまった。 しんどい。 ふと、黒岩に連絡を入れた。 返事はないが、何となく送っただけだった。 自宅の最寄り駅に着くと、突然の眠気が襲ってきた。 家までもつのか不安になり、ネットカフェで仮眠を取ろうかと考えていると、目の前に黒岩が立っていた。 「お疲れ様」 彼の声に驚いたが、同時に嬉しさがこみ上げる。 「誤字だらけだったから、心配した」 彼は笑いながら言った。 自分の酔っ払い具合がどれほどひどかったのかと、少し恥ずかしくなった。 「だいぶ飲まされた?」と彼が心配そうに聞く。 俺は頷くだけで精一杯だった。 黒岩は俺の荷物を持ち、ふらつく俺の体を支えてくれる。 その支えが心地よかった。 自宅に戻り、風呂に入る。 湯船に浸かりながら、目を閉じると体が重く感じた。 「風呂場で寝るなよ」 黒岩の声が聞こえる。 俺は力なく「うん」と返事をする。 「黒瀬、聞こえてる?」 彼の声が少し近くなった。 「うん」 再び応えるが、体にうまく力が入らない。 「体洗おう。立てる?」 彼が問いかける。 俺はまた「うん」と返事をするが、立ち上がるのは簡単ではなかった。 黒岩が手伝ってくれて、ようやく立ち上がり、浴室の椅子に座らされる。 「一人で座れる?」 彼が確認する。 「うん」と答えたものの、支えがなくなると体がゆらゆらと揺れ始めた。 「大丈夫か?」 再び彼が尋ね、背中を洗ってくれる。 「前は自分でできる?」と聞かれたが、俺は頷こうとして、彼の肩に頭をのせた。 ボディーソープの香りと混じり合った黒岩の匂いが鼻をくすぐる。 落ち着いた瞬間、俺はそのまま眠りに落ちた。 彼の存在が、俺を無償の愛で包み込んでくれている。 素直になれない自分が情けなくもあり、同時にそんな自分を受け入れてくれる彼の優しさに、心が温まる。 どんなに不器用で、どんなに凡人だと思っていても、俺のことをちゃんと見てくれている人がいる。 その事実に、今更ながら気付かされる夜だった。

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