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第15話
月明かりが静かに道を照らす中、俺たちは無言で歩いていた。
黒岩が隣を歩くその姿を見つめると、初めて黒岩をみかけた時の記憶がぼんやりと浮かび上がってきた。
高校時代、彼と俺が「ドッペルゲンガー」と呼ばれていたことを思い出し、微かに笑みが漏れる。
「まさか、高校生からドッペルゲンガーの話を聞くとはな」
彼は少し驚きながら尋ねた。
「それ、長田から聞いたのか?」
「長田?マネージャーの子?」
「ああ」
「太陽の国の王子様と月の国の王子様だってよ」
黒岩はその言葉に呆れたように笑った。
「なんだよ、それ」
「お前の王子様キャラに巻き込まれたんだぞ」
「初耳だな」
黒岩も微笑む。
彼はいつも自然体で、俺のように周りに流されることはなかった。
俺は黒岩を見上げ、その瞳に自分の姿を映し出す。
「髪を明るくしていたから、太陽、黒髪のお前は月。そんな感じだろ」
「確かに髪、今よりも明るかったな」
「瞳の色が明るいから、染めても違和感ないんだよ。校則も緩かったし」
その言葉を口にしながら、高校時代のことが脳裏に蘇る。
楽しい思い出も確かにあったが、それ以上に抱えていた不安や孤独感が心を覆っていた。
「青春って、いいよなぁ」と俺は呟く。
「みんな青春してたなあ~。戻りたいなあ~」
黒岩は俺の言葉に優しく笑った。
「戻って何がしたいんだ?」
「恋だよ。甘酸っぱい恋がしたい」
俺は少し照れながら答えた。
「マネージャーとの恋なんて憧れるだろ?お前、まさか経験者か?」
黒岩は首を振る。
「いや、俺の時はマネージャーも部員も男ばかりだった」
「なら、憧れるだろ?な?」
俺は半ば冗談交じりに言った。
しかし、次の瞬間、黒岩は予想外の行動に出た。
「――しよう、恋」
突然俺にキスをしたのだ。
道端での突然のキスに、俺は驚きと困惑で頭が真っ白になった。
黒岩が先を歩いていくのを見つめながら、なぜ彼がそんなことをしたのか全く理解できなかった。
家に戻ると、俺はすぐに黒岩に詰め寄った。
「何で、キスしたんだよ!」
黒岩は少し笑いながら答えた。
「マネージャーみたいなもんだろ、俺も?」
「はあ?」
俺はますます混乱した。
「お前、マネージャーと恋がしたいって言っただろ?なら、俺と恋をすればいい」
「俺がしたいのは、青春の恋だ!」
俺は必死に言い返したが、黒岩は静かに微笑んでいた。
「青春なんて、明確な定義はないよ。第二の人生を青春と捉える人もいる。今から青春を始めてもいいんじゃないか」
俺は動揺しながらも尋ねた。
「お、お前は、俺と、恋ができるのか?」
黒岩は再び俺にキスをした。
そのキスはさっきのよりも深く、舌が絡まった。
「してるよ、恋」
彼は静かに囁いた。
風呂に入ると、俺はさっきのキスを思い出し、顔が熱くなる。
何なんだよ、アイツ!
舌を絡めやがって!
俺は恋愛経験が乏しいんだぞ!
それなのに、どうして俺は嫌じゃなかったんだ――
風呂の中で考え込んでいると、長い時間が経っていたことに気づいた。
突然、ドアが開き、黒岩が顔を覗かせた。
「起きてるか?」
「な、なんだよ!」
俺は驚き心の準備ができていない自分に焦りを感じた。
「長いから心配になったんだ」
「もう上がるから、出てけ!」
俺は焦って言い返したが、浴室を出ると、黒岩がバスタオルを広げて待っていた。
「じ、自分でできる!出てけ!」
「駄々こねるな。風邪ひくだろう」
俺は彼に抗議したが、黒岩はいつも通りに優しく体を拭いてくれた。
その優しさが、今はどこか居心地悪く感じた。
「も、もうキスするなっ」と俺は顔を真っ赤にしながら抗議したが、黒岩は微笑んで「わかった」と言った。
しかし、次に彼が言った言葉に俺は再び動揺した。
「黒瀬がシてと可愛くおねだりするまで我慢するよ」
「し、しねえよ!」
俺は顔を真っ赤にして叫んだ。
いつもは一緒のベッドで寝ているが、その夜、俺は一人で寝ることにした。
久しぶりの一人寝は、予想以上に虚無感に襲われ、全然眠れなかった。
ベッドに横たわりながら、黒岩の言葉や行動を何度も反すうし、その意味を考え続けた。
眠れない夜が一週間も続くとは、この時はまだ思いもしなかった。
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