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第19話

家に帰ると、 「サウナ飯も、たまにはいいな」 黒岩が言った。 「黒岩の飯のほうが、俺には合ってるけどな」 俺の言葉に彼は嬉しそうに笑った。 黒岩が俺の顔を覗き込もうとするから、俺は自然に視線をそらし、彼の背後からそっと抱きついた。 「黒瀬…?どうした?」 「……お前は、その……俺と、したいのか?」 自分で言っておいて、何を言ってるんだ俺は、と恥ずかしくなる。 黒岩は少し驚いたようだったが、すぐに優しい声が返ってきた。 「もちろん、したいよ」 彼のその言葉を聞いて、俺は胸がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。 好きなんだけど、その先に進むことが、まだ現実味を帯びてこない。 彼とのキスは好きだし、撫でられるのも抱きしめられるのも好きだ。 でも、その先にある行為が、どうしてもピンとこない。 「黒瀬はどうしたい」 「俺は…わからない。でも俺が嫌だっていったら、お前が我慢することになるだろう。それは……嫌だ」 黒岩は少し考えた後、 「じゃあ、少しずつ俺に馴染んでもらおうかな。まずは一緒にお風呂に入るのはどうかな?」 彼の提案に、俺は頷いた。 男同士だし、学生時代には友達と一緒に風呂に入ることもあったから、それなら抵抗はない。 しかし、実際に風呂に入ると、思っていたのとは全然違った。 湯船に背中を預けて、黒岩のたくましい胸に寄りかかるこの体勢。 お互い裸で密着しているし、明るいし――なんか、思っていたのと全然違う! ベッドで裸の方が逃げ場があるんじゃないか。 湯は入浴剤で少し白濁とているだけで、心許ない。 いつもより低い湯の温度に、長風呂するためなのかと勘繰ってしまう。 無理。でたい。恥ずかしい。 俺は緊張と羞恥心から縮こまる。 「そんなに緊張しないで。はい、手を出して」 黒岩は俺の緊張を解そうと、優しく手のマッサージを始めた。 手の甲から始まり、手のひら、指へつづく。 親指と人差し指の間を押され、気づけば体から力が抜けていく。 彼の手はどこか安心感があって、次第にリラックスしていった。 「俺、一人暮らしを始めてから、湯船に浸かる習慣がなくなってさ。黒岩は風呂好きだよな」 「両親の影響かな」 「へえー、でも俺温泉に行ったら、最低でも三回は入る」 「温泉か…いいな。今度、一緒に行こう」 「うん」 黒岩の手が、気づくと俺の下腹を優しく撫でていた。 優しい動きに物足りなさを感じる。 もっと強い刺激を期待している自分に驚く。 俺は下半身の変化に気づき慌てた。 「俺、先に上がる…」 逃げるようとしたその瞬間、黒岩が俺を抱きしめて離さない。 「どうして?これが原因?」 彼が力がこもったオレに優しく触れてくると、思わず体が反応してしまう。 気づかれてしまった。 これだけのことで反応してしまった自分に情けないのに、変化を止められない。 彼は嬉しそうに手を上下に動かす。 「おいっ……」 「感じてる?勃ってるよ。嬉しいな」 「言うなって……」 「手伝うよ」 「い、いいって!嫌だろ、その、男のなんて」 黒岩も抵抗があるばすだ。 「黒瀬のだから、嬉しいんだよ」 俺は抵抗したが、黒岩は背後から強く抱きしめてくる。 逃げ場がない。 「大丈夫、俺からは感じてる顔は見えないよ。安心して、俺の手だけ感じて」 そんなことを言われても……俺の息遣いが乱れていくのが自分でもわかる。 熱いーー クラクラするーー 黒岩はまるで俺の弱いところを知っているかのように、激しく時に焦らすように攻め立てる。 浴室に声が響く。 自分の声だと認識するだけで、羞恥心が煽られ余計身体が熱くなる。 恥ずかしくて、でも気持ちよくて、どうしようもなかった。 黒岩の手だからこそ、こんなに感じるのかもしれない。 「あっ……もう、イク!」 そうして、俺は彼の腕の中で果てた。 しばらく呼吸を整えた後、俺はぽつりと言った。 「悪い、お湯を汚した……」 「謝るなよ。気持ちよかったか?」 「うん……」 黒岩は俺のこめかみや頬に優しくあやすように何度もキスしてくれた。 その温かさに包まれながら、俺は彼への想いがさらに深まっていくのを感じた。

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