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第20話

その夜は、ぐっすり眠れました。 じゃない! その日をきっかけに、黒岩のスキンシップが過激になった。 触れられるたびに、その手のひらから伝わる熱が、俺の心臓を狂わせる。 大人の男の色気が滲み出ていて、どうしようもなく困る。 心臓が持たない。 風呂から上がり、冷静になった俺は、心の中に溜まった不安を、黒岩にぶつけてしまった。 「俺は気持ちよかったけど、黒岩は俺で本当に気持ちよくなれるのか?」 自分でも情けないほど声が小さくなる。 不安で押しつぶされそうな心情が、言葉に現れてしまった。 俺は男だし、明るい場所で俺の全てを見たら、黒岩が冷めてしまうんじゃないかと、どうしても心配になった。 黒岩は無言で俺の手を取り、そのまま彼の股間に触れさせた。 手に感じた熱くて力のこもった塊に、カッと頭が熱くなった。 「安心した?」と微笑んで聞かれた瞬間、俺は目を逸らすことしかできなかった。 黒岩のことは好きだ。 風呂場での一件で、改めて自分が彼に恋をしていることを実感した。 ただ触れたいだけじゃなく、黒岩ともっと深く繋がりたい、俺で彼を満たしてあげたいという思いが強くなっていく。 怖くないと言えば嘘になるが、その恐怖よりも黒岩に触れたい、触れてほしいという欲求の方が勝っていた。 「どうしたらいいんだ…」 俺は頭を抱えて悩んだ。 どう行動すればいいのか、全く分からない。 後は俺がOKを出すだけだというのに、黒岩を前にするとどうしても臆してしまう。 あと一歩、その線を越えることができないでいる。 勢いがあれば、きっかけがあればと、あれこれ悩むばかりだ。 いっそ黒岩が強引に奪ってくれれば、なんて考えが浮かんでしまうが、それは無責任すぎる。 酒の力を借りようとしたが、結局酔うこともできず、ただ気持ち悪くなって吐いただけだった。 黒岩の手間を増やすことしかできなかった。 そんなことを考えながら取引先からの帰りの電車内、ふと女子大生らしき三人組の楽しげな声が耳に入った。 「え!聞きたい!聞きたい!」 「ゆーりんの彼、料理男子なの?」 「違うよ。すっごい不器用なの!なのに私の誕生日だからって頑張ったんだって!」 「愛されてるぅ!」 どうやら、彼女の誕生日に彼氏が手作り料理をサプライズでプレゼントしたらしい。 「いいなあ。ゆーりんだけのために、ゆーりんだけを思って作ってくれたんでしょー」 「ねー!何作ってくれたの?」 「カレー。市販のルーなんだけど、それも煮込みが足りなくて、野菜がガリガリだったの」 「なにそれ、記憶に残っちゃうじゃん」 「カレーのたびに思い出しちゃうね」 「今までの誕生日で一番嬉しかったかも」 気持ちが大事ってことか。 そういえば黒岩の誕生日は来月だったな。 俺は何かに導かれるように、これだ!と思い立った。 会社に戻ると、俺は早速、黒岩の誕生日に向けて休暇申請をした。

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