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第21話

夕食の時間、黒岩と食卓を囲みながら、ふと聞いてみた。 「黒岩、料理っていつから始めたの?」 黒岩は箸を置き、少し考えるようにしてから答えた。 「一人暮らしを始めてからだよ。最初に作ったのはカレーだったかな。煮込むだけで簡単だし、失敗が少ないからね」 「ふ~ん、カレーか…」と俺は言葉を飲み込んだ。 カレーなら俺でも作れそうだ。 先日、電車で聞いた女子大生の話でも、彼女の彼氏が誕生日に手作りしたのはカレーだったっけ。 「料理に興味があるの?」 黒岩が不意に聞いてきた。 「え!な、なんで?」 「いや、色々聞いてくるから、もしかして自分でも作りたいのかなって」 「ううん。全然興味ないし」 俺は焦った。 本人に何を聞いてるんだ俺は。 計画がバレていないことを祈るばかりだ。 「そう?もし興味が出たら、教えてあげるよ」 黒岩の優しげな笑顔に、心臓が跳ねた。 でも、俺の気持ちはまだ伝えられない。 準備が必要だ。 翌日、会社に戻ると、後輩の安田がカレーの香りを漂わせながら戻ってきた。 「安田、どこ行ってきたんだ?カレーの匂いがすごいぞ」 「課長とカレー屋に行ったんですけど、店に入った瞬間、スパイスが全身に染みついちゃったんですよ。カレーはすごく美味しかったんですけど、電車でもみんなにジロジロ見られるし、ちょっと大変でした」 「スパイスカレーかあ…」と俺はつぶやいた。 「興味ありますか?味はすごく美味しかったですよ。割引券をもらったんで、どうぞ」 安田が差し出した割引券から漂うスパイスの匂いに、俺は思わず顔をしかめた。 「うわっ、カレー臭っ!どんな店だよ」 外出先から戻ってきた他の社員たちも、次々と安田にカレーの匂いを指摘していた。 安田はそのたびに申し訳なさそうに笑っていた。 スパイスカレーか…。 俺はふと、カレーを作る計画を思い出した。 市販のルーを使うより、スパイスカレーの方が手作り感が増す気がするが、スパイスを使った本格的なカレーは、初心者の俺には難しそうだ。 それでも諦めきれずレシピを探すと、初心者向けのスパイスカレーレシピを発見した。 スーパーで手に入るスパイスで作れる、簡単なレシピだ。 これなら俺にもできる。 「よし、これにしよう」 一緒にカレーを食べて、そしてその時に、俺の気持ちを伝えるんだ。黒岩の誕生日が近づいている。この計画が成功すれば、きっと俺たちの関係も一歩前に進めるはずだ。

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