22 / 24
第21話
夕食の時間、黒岩と食卓を囲みながら、ふと聞いてみた。
「黒岩、料理っていつから始めたの?」
黒岩は箸を置き、少し考えるようにしてから答えた。
「一人暮らしを始めてからだよ。最初に作ったのはカレーだったかな。煮込むだけで簡単だし、失敗が少ないからね」
「ふ~ん、カレーか…」と俺は言葉を飲み込んだ。
カレーなら俺でも作れそうだ。
先日、電車で聞いた女子大生の話でも、彼女の彼氏が誕生日に手作りしたのはカレーだったっけ。
「料理に興味があるの?」
黒岩が不意に聞いてきた。
「え!な、なんで?」
「いや、色々聞いてくるから、もしかして自分でも作りたいのかなって」
「ううん。全然興味ないし」
俺は焦った。
本人に何を聞いてるんだ俺は。
計画がバレていないことを祈るばかりだ。
「そう?もし興味が出たら、教えてあげるよ」
黒岩の優しげな笑顔に、心臓が跳ねた。
でも、俺の気持ちはまだ伝えられない。
準備が必要だ。
翌日、会社に戻ると、後輩の安田がカレーの香りを漂わせながら戻ってきた。
「安田、どこ行ってきたんだ?カレーの匂いがすごいぞ」
「課長とカレー屋に行ったんですけど、店に入った瞬間、スパイスが全身に染みついちゃったんですよ。カレーはすごく美味しかったんですけど、電車でもみんなにジロジロ見られるし、ちょっと大変でした」
「スパイスカレーかあ…」と俺はつぶやいた。
「興味ありますか?味はすごく美味しかったですよ。割引券をもらったんで、どうぞ」
安田が差し出した割引券から漂うスパイスの匂いに、俺は思わず顔をしかめた。
「うわっ、カレー臭っ!どんな店だよ」
外出先から戻ってきた他の社員たちも、次々と安田にカレーの匂いを指摘していた。
安田はそのたびに申し訳なさそうに笑っていた。
スパイスカレーか…。
俺はふと、カレーを作る計画を思い出した。
市販のルーを使うより、スパイスカレーの方が手作り感が増す気がするが、スパイスを使った本格的なカレーは、初心者の俺には難しそうだ。
それでも諦めきれずレシピを探すと、初心者向けのスパイスカレーレシピを発見した。
スーパーで手に入るスパイスで作れる、簡単なレシピだ。
これなら俺にもできる。
「よし、これにしよう」
一緒にカレーを食べて、そしてその時に、俺の気持ちを伝えるんだ。黒岩の誕生日が近づいている。この計画が成功すれば、きっと俺たちの関係も一歩前に進めるはずだ。
ともだちにシェアしよう!