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第22話
※黒岩目線
鉄道本社のオフィスに静かなざわめきが広がる中、俺はデスクに座りながら黒瀬に電話をかけた。
現地確認日の変更の連絡を伝えなければならなかったからだ。
上司のスケジュールが急遽変わったため、どうしても調整が必要だった。
しかし、黒瀬の社用携帯は繋がらない。
彼の会社に直接電話を入れると、後輩の安田が応対してくれた。
「黒瀬さんは、今、鉄道本社で打ち合わせ中です」
「そうでしたか。黒瀬さんの来週のスケジュール確認できますか?木曜日なんですが」
「はい、少々お待ちください」
その日は、俺の誕生日だった。
せっかくだから、夜は二人で外食でもしようかと密かに考えていた。
「木曜日は、すみませんお休みです」
「休み、ですか?」
俺は驚いた。
そんな話は彼から一度も聞いていなかった。
折り返しの電話を頼んで、電話を切った。
その後、社内で黒瀬を見かけた。
打ち合わせがちょうど終わったところだったらしい。
「黒瀬、さん」と声をかけると、黒瀬は少し嬉しそうに笑った。
「来週月曜日の予定をリスケしたいんだ」
「ああ、わかった。いつ…」
しかし、俺の次の言葉に彼の表情が変わる。
「来週の木曜休むんだって?」
尋ねると、黒瀬は少し間を置いて「あ~…」と曖昧な返事を返す。
「俺の誕生日だね」と俺が続けると、「まあ、うん」とそっけない返答。
そこで、俺は冗談半分で尋ねた。
「サプライズしてくれるの?」
その言葉に、黒瀬は急に黙り込んだ。
「あれ、本当に?」
俺は驚き、申し訳なくなる。
「ごめん。でも、その気持ちだけで嬉しいよ」
彼が俺の誕生日を、俺のことを考えていてくれたことが嬉しかった。
それ以上のものはない。
だがその気持ちを伝えると、黒瀬の表情がみるみる不機嫌になる。
「――なんだよそれ」
吐き捨てるように言って、無言で立ち去った。
「黒瀬――」
俺は彼の背中に声をかけたが、振り返ることはなかった。
スケジュールの変更は後でメールで行った。
俺は自分の迂闊さを反省し、言動を後悔した。
サプライズするようなタイプではないと勝手に思い込んでいたが、もしかしたら彼は本当に何かを考えていたのかもしれない。
それを思うと、嬉しさが込み上げてきた。
帰宅後、俺が謝る前に、黒瀬から先に謝罪があった。
「ごめん、八つ当たりした」
「俺のほうこそごめん。無神経だったね」
「サプライズとか関係ないから。俺、お前の誕生日精一杯祝うから!覚悟しとけよ」
黒瀬は真剣な表情で言った。
その言葉が胸に突き刺さる。
「ありがとう」と俺は静かに言い、込み上げる愛おしさを抑えきれずに、黒瀬をそっと抱きしめた。
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