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第5話 手ほどきしようか

「じゃあ、ちょっと横に座ってもいい?ケント君は右利きだよね。相手の彼も右利き?」  俺はケント君の右横に移動した。相手の彼も右利きなんだな。 「もし、告白するならさ、正面より横並びの方がいいんだよ、男はね。心理的な縄張りっていうか、前からだと構えてしまう。で、好きになった理由とか経緯とかそんなものはいらない。ただ、好きだって言えばいい」  なんか、真剣に聞いてくれてるな。 「で、好きだって言って、逃げ出さずにその場にいてくれてたら、もじもじするんじゃないよ。こうやってキスしてさ…『俺のファーストキスはお前としたかったんだよ』とか言ってみればいいんだよ」  俺は辺りを見回してからケント君の後頭部から首の辺りに左手を添えて、右手で顎を持ってキスをする振りをした。するとケント君は目をつぶった。頬が少し赤くなってる。おいおい。振りだよ、振り。ここでするわけないだろ。ここがフードコートじゃなくて、俺の家のベッドの上だったら、この子は簡単に身を任せそうだな。好きなのは、ペアを組んでる男の子なのか、ただ男が好きなのか…まぁ、悔いのないアオハルにしてくれよな。 「あの、レオさん…僕が告白して、もしだめだったら、その…また色んなこと教えてもらえませんか」  うん?俺をキープしておきたいってのか?ケント君。それは百年早いよ。今すぐなら教えてあげてもいいけどさ。 「悪いな。俺も次の人が待ってるんでね。頑張れよ」  じゃあ、と言って俺はトレーを持って席を立った。ダストボックス横の壁時計を見ると、16時前だった。なんだかんだで1時間近く話していたのか。  こうして、俺の初めてのシチュエーションデートは終わった。  さぁ、次に待ってくれている人にいくか、それとも…あぁ、どうしようかな。今回は18才だったけど、ひょっとして次は、男色は高尚であるとか…江戸時代か…耽美を謳われる超大先輩がお見えになる可能性はないことはない。だとしたらそれはもはや傾聴ボランティアになってしまうな。  平日の昼過ぎのフードコートは選択ミスか…『シチュエーション・クラブ』のルールとして複数のリクエストはできない。今のリクエストでお気に入りをしてくれた人と次々とデートするのは、何ら問題はないけど、新しくリクエストをしたい時は今のリクエストを消去しなければいけない。でもすぐ消去はできないみたいだ。お気に入りしてくれた人とデートの後何もせずに一週間経過すると、新しいリクエストができる。申し訳ないが、せっかくお気に入りしてくれた人達もろとも消去だ。ごめんね。いい出逢いがありますように。  俺は一週間かけて次のリクエストを考えることにした。

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