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第21話 記憶
何故だろう。お兄さんの記憶の中では、俺はレオではなく、紫乃でいたかった。あんなに嫌ってた名前なのに。
「紫乃…素敵な名前だ。じゃあ今からは、紫乃って言って抱いてもいいんだね」
「いいよ。お兄さん」
「俺は…君彦だよ」
お兄さんの急な名乗り上げ。あぁ、名前言っちゃってよかったの?別に誰かに言いふらすわけじゃないけど。せっかく、お兄さん、って都合よくて気に入ったあだ名をみつけたのに。俺が紫乃って言ってしまったからなのかな。お兄さんも本当の名前で俺を抱きたかったのかな。どこの誰かなんて関係ないけど、キミヒコってやっぱり坊ちゃんらしい名前だ。
「キミヒコ」
「そう。レオ君の君に、猿田彦の彦」
「サルタヒコ?」
「猿田彦大神だよ。何事も良い方向へ導いてくださる神様だよ」
お兄さん、いや君彦は口頭の説明で十分わかったのに、俺の真似をして、俺の胸に君彦の文字をわざと乳首に触れながら書いた。
「君彦…俺も君彦って呼んでいい?」
「いいよ、紫乃。紫乃を抱いてる時に君彦って呼んでよ。君彦って甘い声でいってよ…あぁ紫乃、いいよ」
君彦のセックスのボルテージが一気に上がった。噛みつかれそうな激しいキス。息ができなくて堕ちてしまいそうだ。君彦になったとたんに激しい。でも、こんなのも好きだ。
「紫乃…紫乃…あぁ」
紫乃って呼ばれて抱かれるのは、あの剣道部の先輩以来だ。そう、お兄さんは二人目の男。少し遠い目をした俺を君彦は見逃さなかった。興奮してるくせに。
「紫乃、今、他の男のこと考えてただろ」
鋭いなぁ。
君彦は少し怒った顔をしている。俺は君彦をあやすように言った。
「君彦のことしか、思ってないよ」
「本当だね…じゃあ、あと…3回してもいい?」
「…いいよ。君彦となら何度でも」
君彦は少し機嫌を直したようだ。俺を腹這いにして、腰を持ち上げると俺の尻にかぶりついた。
「紫乃のお尻は本当に俺をだめにするよ」
舐めて、噛んで、吸い付いて。お腹いっぱいになったら、熱く硬くなったモノを挿れる。君彦の好きなリズムで腰を動かす。深くゆっくりと永遠に続きそうなリズム。
「あぁ…君彦いい。もっと…もっと君彦がほしいよ」
「紫乃、もっとだね。もっとなんだね…嬉しいよ」
君彦が俺の尻にはまったように、俺も君彦の腰の動きにはまっている。このリズムから抜け出すのは大変そうだ…。
俺達は何度交わったかもわからないくらい愛し合った。そう、君彦と紫乃として。お互いの名前を囁きながら、キスして、愛撫して、肌の触り心地や体温を確かめるように。俺達それぞれの記憶に留めておけるように。
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