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第3話

一番弱虫だと思ってたしょうちゃんに言われて恥ずかしくなり、言い訳しようと考えて口をもごもごする。 うー…しょうちゃんのくせに生意気だぁ… なにか言おうと顔を上げると俺の前に統乃が立っていた。 「幽霊はいるよ!だって俺も見たもん!」 「じ、じゃあ統乃様も見間違いじゃ」 「二人して見間違えるわけないじゃん!」 統乃はしょうちゃんをポカポカと殴りしょうちゃんが泣いていた。 俺はなんて統乃に言えばいいのか分からなかった。 俺の後ろにいた統乃、白い物体が見えたのは真正面だから統乃が見た可能性は低いと思った。 でも、もしかしたら統乃も本当に見たのかもしれない。 真実は分からないが、統乃が俺の味方をしてくれたのがとても嬉しかった。 ……統乃はこの日の出来事を覚えているだろうか。 日曜日、カフェが暇だと店長から休暇をもらった。 もうすぐ誕生日だから誕生日プレゼントらしい。 …そうか、祝ってくれる人がいないからすっかり忘れていた。 唯一の学園の友人である|立花《たちばな》|塁《るい》はそもそも俺の誕生日を知らないだろう、俺も塁の誕生日は知らないし…面倒だから今後も教えないだろう、お互いに… 久々の休暇、どうしようか…行くところといったら近所のスーパーのタイムセールくらいだ。 今日は卵が激安だから買わなくては…お一人様一点だから塁も誘おうかな?金持ちが8割の有栖院学園で貴重な貧乏仲間だからいつも飛んでくる。 そんな事を思っていたら、見知った姿が見えた。 …最近よく会うなぁー… 遠くからだから声は聞こえないけど、なんか言い争ってるような… そう思っていたらクリーム色の髪が揺れた。 俺は目を丸くして固まった。 …まさか、日本に支倉の後継者の頬を平手打ちする子がいるとは… 統乃の彼女はクルクル巻いた髪を揺らしながら何処かに行ってしまった。 統乃はその場から動こうとせず、空を見上げていた。 …今日は晴れだと天気予報がお知らせしてたから雲一つない青空だ。 今の統乃の姿、一番俺に見られたくないよな…嫌いなら尚更… 俺はスーパーに向かおうと足に力を入れる。 ふと、統乃を見た。 「統乃、偶然だね」 「……さっきからいただろ」 ぐっ…統乃には全てお見通しだった。 やっぱりほっとけなくて統乃に声を掛けると統乃は俺を見る事なく答えた。 俺の方を見てなかったのによく分かったな、それとも俺の演技がわざとらしかった?……なんか後者の気がする。 統乃の頬を見るとほんのり赤くなっていた。 「俺のバイト先に行けば店長が手当てしてくれるかも…コーヒー一杯奢るよ、あのカフェのコーヒーは自慢なんだ」 「…貧乏人に奢られたくないよ」 うっ…統乃は昔からプライド高いからな、でも…手当てぐらいしないと色男が台無し。 ジッと統乃を見ると、統乃はため息を吐いた。 そして持っていたカバンからなにかを取り出し俺に投げつけた。 「アンタのせいで彼女と喧嘩したんだけど」 そう冷たく統乃は言った。 投げつけたものを掴み見ると、前に統乃に渡したタオルだった。 …なんでこのタオルで喧嘩するのかと思って首を傾げたら統乃がイライラした顔で睨んできた。 「そのタオル、アンタに返し忘れてカバンに入れてたら彼女にバレてさ…浮気を疑われて喧嘩したんだけど」 「…ご、ごめん」 普通のタオルだったらきっと浮気は疑われないだろう。 でも俺のタオルには「|猫神様《ねこがみさま》」という国民的人気キャラクターのイラストが端にちょこんと描かれている。 ぶさかわとして若い女性に人気のキャラクターで俺もなんとも言えない愛らしさで密かにグッズを集めてたりする。 …そう、若い「女性」に人気のキャラクターだ。 統乃は勿論キャラクターものとかは興味ないからタオルは統乃のものだと思うのはまずないだろう。 だから浮気を疑ったのだろう。 悪い事をしたと反省して、どうすればいいか悩む。 二人を仲直りさせる方法は… 「俺が説明する、ただ濡れていたお客さんにタオルを渡しただけだって」 「やめて、余計ややこしくなる」 む…確かにややこしくなりそうだ。 でも、それ以外に償える方法なんて思いつかない。 統乃はわざとらしく大きなため息を吐いた。 「はぁー、どうすんの…これから映画の予定あったんだけど…チケット無駄になっちゃったじゃん」 「べ、弁償する!」 「…金ないくせに」 確かにお金に余裕はあまりないが、チケットぐらい払える…激安卵を諦めて、一週間草でも食えば大丈夫! 俺が自分のカバンから財布を取り出そうとしたら統乃に腕を掴まれた。 どうかしたのかと統乃を見たら統乃は俺をジッと見ていた。 鼻が触れ合いそうなほどの至近距離で変にドキドキする。 昔でさえこんなに至近距離で見つめられた事はない。 「彼女の代わりをして」 「…………え?」 一瞬何を言ってるのか分からず呆然と統乃を見るとなにか悪巧みを考えてる顔をしていた。

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