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第1話③
灼熱の太陽が波に溶けるようにして沈み、満天の星々がうっすらと姿を現し始める頃。
程良く空調の効いた、最高級コテージの一室には、卑猥な熱気が漂い始めていた。
「……ッ、あ……ッ」
胸の飾りに吸い付かれて、思わず鼻に掛かった吐息が漏れる。
その声に気を良くしたのか、琉斗 を組み敷いた男――ヴィルフリート・ハンコックは、両の胸を舌と指とで捏ねるように嬲り始めた。
最初こそ抵抗していた琉斗だったが、鼓動の高鳴りが、抑え切れない期待のためであることは認めざるを得ない。
琉斗がヴィルフリートの無体をおとなしく受け入れる気になったのは、一つには打算のためだ。
ここでこの男の言うなりになっておけば、昨夜からこれまでの一連の不祥事をなかったことにできるかもしれない――酔った挙げ句にスタッフに手を出したとなれば、ヴィルフリートの側も、琉斗の素行を一方的に責め立てることは出来なくなるだろう。それは言ってみれば、事後共犯のような関係と言えなくもない。
しかし、そのために自分の身体を差し出すというのは、さすがに度が過ぎている。失恋の痛手で自棄になっている、という言い訳も出来ないではないが、さすがにそんなことでは自分は騙せなかった。
正直に言ってしまえば、琉斗はアナルセックスに興味があったのだ。男は趣味ではないけれど、アナルが気持ちいいというのはよく聞くし、その相手が超の付くイケメンなら、まぁ悪い話ではない。事後は確実に気まずくなるだろうが、どうせバイトの琉斗はVIP用コテージ専属バトラーになどなり得ないのだから、顔を合わせることもないだろう。
――いいさ、お手並み拝見だ。
そんな軽い気持ちで、琉斗は自分でも意外なくらい素直に、自信満々のヴィルフリートを受け入れることにしたのだった。
――が。
「……ん…………」
鼻に掛かった吐息を漏らしながらも、琉斗は違和感に眉をひそめた。
制服を剥ぎ取られ、熱い肌を重ね合う。時折敏感な部分を掠めていく掌 に、否応なく期待は高まって……いくはずなのに、どうにももどかしい。
2度目に口付けられた時、違和感は確信に変わった。
――もしかしてコイツ、あんま慣れてない!?
いかにもスパダリ然とした姿からは想像もつかない事実に、琉斗は密かに愕然とした。
確かに、乳首を舐められたり弄られたりするのは、それなりに気持ちいい。けれど何というか、どうもこう、物足りない気がするのだ。
当のヴィルフリートはというと、琉斗の半勃ちのペニスに少しだけ躊躇を見せる様子はあったものの、比較的あっさりと指を絡めてきた。そこまでの疑惑も忘れて、うっかり期待しかけた琉斗だったが、やはりどうにも「そこじゃない感」がすごい。
男が初めてなのだとしても、自分でする感じで触ってくれればいいのに。このままでは自分も楽しめないし、何となくヴィルフリートも不憫だ。
――どうするかなぁ、コレ。
琉斗が本気で悩み始めた頃、ヴィルフリートがふと逞しい腕を伸ばした。テーブルの下部に設えられた収納部分から取り上げたのはローションのようだ。ご丁寧に未開封のゴムまで揃っている。ラブホでもないのに? VIPルームだから? と、叔父達のサービスへの疑問を感じる余裕があるのも、琉斗がヴィルフリートのテクニックに満足できていないことの証だろう。
「……あ……っ……」
ローションを纏わせた指が秘部に宛てがわれ、反射的に身体が震えた。しかしそれでも、期待していたような快感は訪れず、同時に危惧していたほどの痛みもやって来ない。
琉斗は拍子抜けしてしまった。胸をいじられるのと同じで、気持ち良くはあるものの、そこから先が続かない。解されるように周辺を撫で回され、指の先端部分を挿入されても、覚えるのは違和感ばかりだ。
「………………やめるか?」
考え抜いた末に、ついに琉斗は聞いた。服を脱がせたり口付けを交わしてみたりと、前戯の流れ自体はおかしくはない。さすがにこの容姿で性経験がないということはなさそうだが、ヴィルフリートはどうにも手慣れていない様子だ。酔った勢いでの売り言葉に買い言葉、やっぱり男が相手では――と後悔し始めているのではないかと思ったからだ。
しかし予想に反して、ヴィルフリートは低く呻いた。
「今更……!」
それだけ短く答えて、身を引く様子もない。改めて見返すと、彼の浅黒い肌は朱に染まり、何かを堪えるように、美しい眉根をきつく寄せている。
「――!」
ヴィルフリートの変化に気付いて、琉斗は思わず目を剥いた。既に全裸の琉斗に対して、ヴィルフリートは鍛え上げられた上半身を晒すのみだ。しかし、寛げかけた下半身は、着衣の上からでもわかるほどに、激しく反応を示している。
――さすが欧米(?)人!!
琉斗は慌てて身を起こした。「何を……!」との不満げな声を無視して、ローションを取り上げる。
ヴィルフリートは抗議を続けようとしたようだったが、言葉にはならなかった。琉斗が自分で秘部を解し始めたからだろう。
「! ん……っ、あぁ……ッ」
頭の中の冷静な部分が、アナルセックスの経験もないのに、自分はいったい何をしているんだろう、と訴えないでもない。だが、こうなっては背に腹は代えられなかった。流血沙汰になるのだけは絶対にご免だ。
そのまま琉斗は、ある種悲壮な決意で、自身の内部に中指を突き立てる。
「あ……っ! はぁ、……んッ」
その途端、ビクンと身体が跳ねた。先に周囲を丹念に解していたせいか、琉斗の内部は自身の指を、快楽を以て出迎える。
――あれ? 俺結構イケるかも?
そんなことを考えたところで、ゴクリと生唾を飲むような音が耳に入った。琉斗の痴態を目に、ヴィルフリートが喉を鳴らしたらしい。ただの負けず嫌いかと思っていたが、その股間は先程よりも一層強く、着衣を押し上げている。
「あ、あぁ……ッ……ん……ッ」
自慰を他人の目に晒しているという羞恥心が、琉斗の欲を駆り立てた。見せ付けるかのように両足を大きく開き、咥え込んだ指をより深くまで挿入する。
圧迫感は最初だけで、すぐに琉斗の腰はユラユラと淫靡に揺れ始めた。半勃ちだったペニスは今や完全に天を突き、先端からいやらしく蜜を溢れさせ始めている。
「……ッ……!」
耐えかねたように、ヴィルフリートが股間を寛げた。取り出されたモノのあまりの質量に、琉斗は思わず息を呑む。
――やべぇ、コイツめちゃくちゃデカい!
しかし、劣等感を覚える隙はなかった。ワイルド系のイケメン外国人が、ほとんど無意識かのように、既に半分以上勃ち上がっていた股間を扱き始めたからだ。すぐにクチュクチュと卑猥な水音が聞こえ始め、ヴィルフリートの呼吸も荒くなってくる。
とんでもない「俺様」が、自分のあられもない姿を見て勃起しているのかと思うと、琉斗の中に、少しだけ相手を可愛らしく思う気持ちが芽生えてきた。
けれどそれ以上に、琉斗の胸はこれまで以上に高鳴っている。
――アレが、俺の中に入ってくるのか……!
「ッ! ああ……ッ!」
期待に突き動かされるように、琉斗は自身を掻き回す指を、一気に3本に増やした。これまで女性にしてきたのと同じように、内部でバラバラに動かすと、大きな快感が全身を駆け抜ける。
――なんかこれ、ヤバそう……っ!
未知の快楽にほんの少し躊躇したところで、ヴィルフリートが再び伸し掛かってきた。両足を抱え上げられ、弾みで圧迫感を失ったアナルが切なく収縮する。
しかし、不満を訴える間もなく、頭髪と同じ色の茂みを掻き分けて屹立する男の先端が宛てがわれ、琉斗は我に返った。
「――アァッ!」
一気に分け入られて、思わず悲鳴を上げる。琉斗の自慰(では、本来なかったのだが)を見せ付けられ、傍若無人なCEO様は完全に昂 ってしまわれたようだ。慣らすようにユサユサと揺さぶられたのはほんの数回で、やがて激しい抽挿が繰り返され始める。
「ちょっ、待てって……!」
圧倒的な質量に何度も貫かれて、期待していたはずの琉斗は泣き言を漏らした。だが、ヴィルフリートは聞き入れるどころか、憑かれたように突き上げを繰り返している。
「あっ、あぁッ……や……ッ」
やめろ、と突き飛ばすには、絶望的な体格差が邪魔をする。あまりの衝撃に、琉斗は必死で自身のペニスに手を伸ばした。別な快楽で自身を昂らせようとの苦肉の策だが、力の入らない状態では、萎えかけた性器に刺激を与えることは不可能だった。
相手を思いやる余裕のないセックスは、苦痛でしかない。
――コイツ、デカ過ぎだって……!!
壊れんばかりにソファを軋ませてから、やがてヴィルフリートは琉斗の中から、ズルリと勃起したままのペニスを抜き去った。
ようやく終わるかと安心しかけたところで、低い苦鳴のようなものが、薄い唇から発される。
「……ク……ッ」
「――!!」
ほとんど同時に、琉斗は胸部から腹部にかけてを、熱い精液に汚された。見開いた瞳に飛び込んできたのは、快楽に染まったヴィルフリートの虚ろな表情だ。
「……ぁ……」
大量の白濁を浴びせられながら、琉斗は無意識のまま、両膝を擦り合わせた。
セックスには満足できなかったはずなのに、男の射精を受けて、ひどく興奮してしまっているのが、自分でもわかる。
萎えかけていたはずの琉斗の股間は、天を突いてしっかりと屹立していた。
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