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第3話④

 コテージ横に設置されたシャワースペースに、もつれ込むようにして移動する。  ブールの塩素を洗い流すことだけが目的の屋外施設であるため、造りは簡易だが、そこはVIP専用ルームだ。部屋と同じように木材を基調としながら、あくまで機能的かつモダンにデザインされている。  ヴィルフリートが後ろ手にコックを捻った。  琉斗(りゅうと)がその厚い胸板に飛び込むようにして彼に口付けるのと、逞しい腕に抱き締められるのは、ほぼ同時だった。  冷水の降り注ぐ中、ふたりは生まれたままの姿で、ねっとりと舌を絡ませ合う。  射精したばかりの琉斗の分身は、更なる刺激を求めて、既に半分以上勃ち上がっていた。当然ながら、それはヴィルフリートも同じようで、硬くて熱いモノが、腹部にグリグリと擦り付けられている。 「……ッ」  たまらず、琉斗は(ひざまず)いた。水流を受けながらも、ヴィルフリートのペニスは、先端から先走りの粘液を絶えず溢れさせている。その物欲しげな様子が無性に嬉しくて、琉斗は申し訳程度に幾度か扱いただけで、むしゃぶりつくように喉奥まで一気に咥え込んだ。 「――アア……ッ!!」  ヴィルフリートが仰け反るようにして快感を訴える。琉斗の口中で、その分身もまた硬度を増した。つい先程までコレに犯されていたのだと思うと、琉斗の身体を甘い痺れにも似た感覚が走り抜ける。  興奮に突き動かされるまま、琉斗は右手を背後に回した。舌と唇を使ってヴィルフリートを煽り立てながら、我慢できずに自身のアナルに指を突き立てる。男のモノには遠く及ばないが、それでも直接的な刺激に、琉斗のペニスは完全に勃ち上がった。先走りが糸を引くように、シャワーの水流とともに床面に滴り落ちる。  既に琉斗は、純粋にヴィルフリートとのセックスを愉しんでいた。こうなると、講義も何もあったものではい。ただただ快楽のために、男の勃起した肉棒を求めている。 「……っ、クソ……ッ」  琉斗のしたいようにさせていたヴィルフリートだったが、琉斗がアナルを弄り始めたことに気付いて、全身を朱に染めた。未熟で純情な彼にはに思われたようだが、同時に激しい興奮を覚えている事実は隠しようもない。咥えた雄芯が一層力を増して、琉斗を悦ばせる。  悪態は、奔放な琉斗に思うまま煽られていることが悔しかったためだろう。  ヴィルフリートは、やや乱暴に、琉斗の口中から自身を引き抜いた。半ば無理矢理立ち上がらせた琉斗の背を壁面に押し付け、片足を持ち上げる。 「――アッ……アァ……ッ!!」  向かい合った状態で熱い塊に刺し貫かれて、琉斗は甘い悲鳴を上げた。待ち望んでいた衝撃に、ガクガクと膝が震える。  そのまま琉斗の両膝を難なく抱え上げ、ヴィルフリートは腰を使い始めた。対面立位、いわゆる駅弁スタイルでの挿入だ。結合部に琉斗の全体重が掛かることで、より奥深く、ヴィルフリートのペニスの根元までを、完全に咥え込むことになる。 「アッ、ああっ……スゲ……深い……ぃッ」  琉斗はもはや、両手でヴィルフリートの首元にしがみつくしかない。自分では動けないため、彼の突き上げにされるがままだ。 「っ、不埒な真似を……!」  熱に浮かされた様子で、それでもヴィルフリートが(たしな)めてくる。琉斗の直接的な言葉と、耳元で喘がれたことを非難しているのだろうが、速度を増した律動が、彼の言葉をはっきりと裏切っていた。  ――めんどくせぇ奴!  心中で悪態をつきながら、琉斗はうっすらと笑っていた。発言と違って、ヴィルフリートの身体はこんなにも素直だし、琉斗だって、自分の指で弄るよりも、熱くて硬くて、ずっと気持ち良い。 「ああ……リュート……!」  うわ言のように名前を呼ばれて、何とも言えない幸福感が胸の内に満ちてくる。 「アッ、アァ……ンっ、ヴィル……ッ!!」  互いに呼び合いながら、ふたりは同時に限界を迎えた。一度絶頂に達しているため、より敏感になっていたせいもあるだろう。  ヴィルフリートの吐き出した大量の精液を体内に感じながら、琉斗は切なく喉を喘がせる。 「アッ……あ、ん……ハァ……ッ」  ――アナルだけでイケてしまった。  トロトロといやらしく残滓を吐き出し続ける己の分身を眺めて、琉斗はぼんやりと考えた――これは、ハマると色々とマズそうだ。  確かに、ヴィルフリートの腹筋に擦られる刺激はあった。それでも、琉斗もヴィルフリートも、直接琉斗自身には触れていない。思えば先程、プールサイドでの時もそうだった――。  しかし、己の肩口に顔を埋めるようにして、同じようにビュクビュクと精液を迸らせているヴィルフリートの無防備な姿の前では、どうでもいいことのようにも感じられる。  圧倒的な幸福感に包まれたまま、琉斗は束の間意識を手放した。                   ●  風のない夜だった。  島の北側、観光客で賑わう開発中のエリアとも、先住民の住まう集落とも違う、裏寂しい地域に、今はもう使われていないコテージがいくつか並んでいる。  そこは、島が今のような、観光と文化資源の保護を両立させるという政策を取るずっと以前、欧米列強が強引に植民地化及び近代化を進めようとして挫折した時代に、打ち捨てられた場所だった。島にとっては負の歴史、いわば過去と未来の両方から取り残されたエリアだが、そういった場所が不穏な輩の溜まり場になるというのは、どこの国でも同じことだろう。  雨風を凌ぐ機能を残した中でも、一番大きく比較的綺麗な一棟に、男達が数人集まっていた。下卑た笑い声を上げながら安酒を酌み交わす様子は、到底堅気の者とは思われない。  同じ建物の2階の窓辺に、女の姿があった。こちらもまた気だるげにグラスを傾けてはいるが、1階の男達とは違って、世界的にも有名なウィスキーを(たしな)んでいる。  何から何まで、場末の空気にそぐわない女だった。圧倒的に華やかな容貌、グラマラスな肢体。身に着けた装飾品はどれも高級で、背後に確かな財力が感じられる。  女が椅子の上で、細く長い足を組み替えた時、ノックもなく部屋の扉が開かれた。「よう」と悪びれもせずに口元を歪めて見せる男はどうしようもなく粗野だったが、無精髭を生やした顔立ちは悪くない。世の中には、身を持ち崩した風が魅力的に感じられるタイプの女も存在するが、果たして彼女がこの男に興味を持ったのも、そんな理由からだった。 「お前も来いよ」 「イヤよ。騒がしいのは嫌いなの」  男の無作法に苛立ちを覚えながらも、女はすまして答えた。本当は、頭も育ちも悪そうな彼の仲間達が嫌いなだけだ。同じ部屋の空気を吸うなんて、考えただけでもゾッとする。 「それより、例の計画っていうのは、どうなってるの?」  どうでもいい誘いから話を逸らす意味もあって、女はチラリと流し目を送った。自分の美貌の使い道をよく知っている、若さと驕りに満ちた視線だ。効果は覿面(てきめん)で、男は後ろ手にドアを閉め、女の方へ近付きながら、得意げに捲し立てる。 「明後日の夜だ。金持ち共を集めたパーティーが開かれるんだとよ」  女の目がキラリと光った。「標的は」と問いを重ねると、「わかってるよ」と訳知り顔で先を封じられる。 「お前の因縁の相手なんだろ。別に俺達は、浮かれた金持ちなら誰でも良いんだ。お前の憂さ晴らしに付き合ってやるよ」 「――そう。嬉しいわ」  ニコリと微笑んで、女は男を引き寄せた。口付けは、安い煙草の味がする。  女は男を愛してはいなかった。男もまた、自分の美貌と身体が目当てなのはわかっている。しかし、それが何だというのだ。  女は、自分が打算的で利己的な人間であることを自覚していた。利用できるものは何でも使うし、自分を辱めた相手に容赦はしない。 「――」  男の頭を掻き抱きながら、執念深い女の目は、まるで得物を前にした蛇のように、異様な光を放っていた。  第3話 END

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