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第3話 ルームシェア(4)

 ここなんだけどよ、と言われて着いた場所は、駅の改札を出ておよそ百メートルほどの距離にある商店街の入り口にあるスーパーだった。アーケードの隙間からスーパーの二階の倉庫部分の窓が見えた。  キミちゃんは店のシャッターを開けると、店内の電気を点けた。あまり品数を豊富に置いてあるとは言い難い商品棚や静かに音を立てている冷蔵庫があった。 「今は二階へは、そこの奥にある階段から上がってんだ。ここを閉めたら後で見てもらうけどよ、出入りは外側にある扉からになるんだ」  そう言って、暗い階段を上がっていき、笪也も後に続いた。そこはテニスコートより少し狭いくらいの面積はあった。倉庫だけあってダンボール箱やコンテナボックス、業務用の冷蔵庫があった。 「今はこんな散らかってるけどよ、ちゃんと片付けたら、電気、ガス、水道もあるし、生活はできんだ。もしここで住んでもらえんだったらさ、生活に困らないようにリフォームもするし、あぁ、それと家賃はいらねぇよ。光熱費と水道料金だけ払ってくれたらいい。で、これは絶対なんだけど、撤去工事はいつになるかわからねぇが、立ち退き交渉が終わるまでは住んでいてほしい」  逆に言えば、立ち退き交渉が済んで、撤退工事が始まる前には、出て行かなくてはならないというわけだ。 「どうだろう。今から三、四年、家賃分を貯金できると思ってさ、助けてくれねぇかな、お兄さん」 「君八洲さんが住むという選択肢はなかったんですか?」  笪也には自然な疑問だった。 「あぁ、最初は考えたんだけどよ…家には面倒みてるばばぁもいてっからさ、うちのかぁちゃんだけに任せてらんねぇしな」 「そうでしたか…」 「じゃ、次、外扉を見てもらおうか」  キミちゃんは下に降りて行った。商店街の通りに面した店の出入り口を出て、店の横にある狭い通路の先に網ガラスの窓が付いた鉄扉があった。その扉を開けると、トイレと使用されていなさそうなシャワースブースと畳二帖ほどのスペースがあった。かつて店が繁盛していた頃、従業員用の休憩室にしていたのだろう。 「ここの天井に穴開けて階段を作るからさ、出入りはこっからで、さっきの店からの階段は板でも張って閉じようかと思ってんだ」 「あの…天井に穴を開けて、耐久性は大丈夫なんですか」  あまりのお気楽なキミちゃんの言いように笪也は不安になった。 「それは大丈夫だよ、お兄さん。知り合いに一級の建築士がいるからよ、ちゃんと構造的にも大丈夫だってお墨付きもらってっからさ」  どこまで信用していいのかはわからないが、家賃がかからないのであれば、笪也にとってはリスクはなさそうだと判断した。 「わかりました。じゃあ、お願いします」  笪也は返事をした。キミちゃんはまさか今日に返事をもらえるとも思っていなかった様子で、 「えぇっ…お兄さん。本当にいいのかい」 「君八洲さんも、返事は早い方がいいでしょう?」 「そりゃ、そうだけどよ…てっきり持ち帰ってから返事をもらえるもんだと思ってたからよ。いやぁ、お兄さん、ありがとな」 「こちらこそ、よろしくお願いします」  笪也はそう言うと、キミちゃんに名刺を差し出した。 「ディ・ジャパンって…あれ、まぁ…お兄さんいいとこに勤めてんだね」 「社名ばかりの会社ですよ」  笪也は苦笑した。

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