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第3話 ルームシェア(6)

 幸祐は笪也に驚かされてばかりだった。オレンジジュースで感謝され、そしてルームシェアの誘い。数秒、幸祐の箸が止まったままだった。 「ごめん。やっぱ急にこんなこと言うと驚くよな」  笪也は咀嚼すら忘れている幸祐に言った。 「無理に言ってるわけじゃないから…でも一度、考えてみてくれないか」  そう言ってビールを一息に空けた。 「あっ…はい。すいません、本当に突然のお話だったから…なんか、どう言えばいいのか」 「本当に無理はしないでくれ。この間、会社の近くに住みたいって言ってたし…後で詳しく話そうと思ってたけど、実は俺さ、家賃無しで住まわせてもらってんだよ」  笪也は家賃無しを誘い文句にはしたく無かったが、いづれ話すことだと思い、先に伝えた。  そのことを聞いて、幸祐は喜ぶどころか、あり得ないことを聞いたかのようにフリーズした。 「とりあえず、飯食ってから、話し聞いてくれるか」 「…はい」  二人は言葉少なめにして食事をした。ハムカツは冷めても美味しいと幸祐は思った。  食事代金を笪也が支払うと、幸祐は丁寧に礼を言った。 「よかったら、これから、ウチ見に来ないか?すぐそこなんだ」  笪也は内心ドキドキしながら誘った。 「はい。ご迷惑でないなら、お邪魔します」 「砂田は、なんというか礼儀正しいな」  笪也は幸祐の真面目さにクスッと笑って安堵した。 「そこの角を曲がって、商店街の入り口すぐの、今はもう店を閉めているけど、スーパーの二階の倉庫を改装して住んでるんだ」  商店街に近づくと笪也はアーケードの隙間から見える二階建ての窓を指差した。そしてそのスーパーの横の狭い通路の先の鉄扉の前までくると、ここが玄関、といって鍵を開けた。 「出入り口はさ、一階だけど、階段というかもはや梯子なんだけど、それを上って二階に上がるんだ」  笪也は扉を開けるとすぐに灯りを点けた。笪也が言う通りの梯子に近い階段が狭い空間の大半を占めていた。 「ここに、トイレとシャワーブース。で、こっちは物置にしてるかな…頭ぶつけないように気を付けて」  笪也は慣れた様子で階段を上がっていった。幸祐もゆっくりと階段を上がると、そこは倉庫ではなく、すっかり生活の匂いが感じられる、センスのいい居住空間だった。 「うわぁ…成宮さん、広いし、おしゃれですね」 「まぁ、外観からは想像はできないだろ?でも広すぎてさ、向こう半分は未だにただの空間なんだ。個室ではないけど、パーティションで区切るとかもできるし…よかったら、砂田にどうかなって…」  幸祐は壁から天井からその場でグルグルと見回した。そして、笪也に向かって 「成宮さん。本当にここに住まわせてもらっていいんですか?」  笪也は嬉しそうに言う幸祐の顔を見て 「あぁ、砂田が気に入ってくれたんなら、いつからでもいいから来てくれよ。じゃあ、まずはお試しで一週間ほど暮らしてみないか」 「はいっ。ありがとうございます。よろしくお願いします」    幸祐はその場で深々とお辞儀をした。

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