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第4話 天然の幸祐(3)
幸祐が作った煮込みハンバーグは笪也を驚かせるのに十分な出来栄えだった。
笪也は一口食べる度に美味しいと絶賛した。幸祐は、褒めてもらえて嬉しい反面、さっきの恥ずかしい練習を見られたせいもあり、言葉少なに食事を終えた。その後は一緒に片付けをした。
笪也は幸祐を揶揄うのは少し控えようと思いながらも、顔を赤らめる幸祐見たさについつい色々と言ってしまうのだった。
「幸祐はさ、いつ頃から料理をしているの?」
「割と小さい頃から…ですかね。両親が共働きだったし、弟のために、俺が何となくテレビの見よう見まねで作ったのが始まりですね。最初はレンジで温める程度の物でしたけど」
「ふぅん…幸祐はお兄ちゃんなんだ」
「今では、弟の方が俺よりデカくなって、態度もですけどね」
「よくある話しだな…で、幸祐は彼女とかはいないの」
「…それ訊きます?…いませんよ。ずっと」
その言葉に笪也は内心ほくそ笑んだ。
「成宮…あっと…笪ちゃんはどうなんですか?彼女さんは?」
「俺もいないよ。もしいてたら、彼女と一緒に住むだろうよ」
「いないなんて信じられないな…笪ちゃんって、仕事はできるし、長身でカッコいいし、うちの部署でも人気ですよ。仕事している姿が男らしいし、声もステキって」
「本当かな…えらく、褒めるね。幸祐君」
「本当ですよ…モテる人って大抵自分がモテてることに自覚ないんですよね」
幸祐は小さくため息を吐いた。
「じゃあさ、幸祐は俺のことどう思う?」
「…そうですね、やっぱり仕事はできる人だし、見た目もカッコいいし、男としては憧れますよ。同期の瀬田が、成宮さんて他のチームの人からは気安く声をかけられる人じゃないんだって言ってました」
笪也は瀬田がそんな風に思って、誰かに話していたのは意外だった。
「…でも、一緒に暮らしてわかったんですけど」
幸祐はチラッと笪也を見た。
「笪ちゃんは優しいんですけど…ちょっと意地悪ですよね」
「ふふん…好きな奴には意地悪したくなるんだよ」
幸祐はまた揶揄われたと思いながらも、顔が赤くなるのを止められなかった。
それは、笪也の本心だったが、笪也は、そんな幸祐の様子をチラッと見てはこっそり楽しんでいた。
片付けが終わると、笪也は、これから銭湯に行こう、と誘った。幸祐は突然の誘いに驚いたが、すぐに賛成をした。
「シャワーもいいんですけど、お湯にも浸かりたいなと思ってたから、嬉しいです」
「そうだろうと思ってたよ…商店街を抜けたところにいい雰囲気の銭湯があってさ、俺も疲れた時とかたまに行くんだよ」
幸祐は冗談を言って揶揄う笪也も休日出勤で疲れているんだなと、少し気の毒になった。
その銭湯は歩いても十分もかからなかった。昔ながらの風情も残しつつ、サウナも完備された明るく清潔な入浴施設だった。
脱衣所のロッカーは隣同士だった。幸祐はシャツやズボンをさっさと脱いで、最後のボクサーブリーフを下ろした。笪也の前で裸になることになんの躊躇もなく、前も隠そうともしない幸祐に、笪也は逆に見ないように意識をしてしまった。お先に行きますよ、と声をかけて幸祐は風呂場に入った。頭と身体を洗った後一番大きな湯船に二人でゆっくり足を伸ばして浸かった。
「あぁ、やっぱりお湯に浸かると気持ちがいいですね…笪ちゃんも疲れ取れそうですか」
笪也も、そうだな、と言いながら両手を前に突き出しながら伸びをした。そして幸祐の肩や胸、湯の中の股間を見た。
「幸祐は細いし、色が白いんだな」
「そうなんです…陽に当たるとすぐ赤くなって、後々結構大変なんですよね…笪ちゃんはさすがにいい身体してますね。瀬田情報ですけど、学生の時に水球をしていたんでしょ?」
「まぁな…高校の時は全国大会までいったな…しかし、よくそんなこと知ってるな」
「だから言ったでしょ…モテ男さんの情報は本人の知らないうちに色々出回るんですよ」
幸祐はそう言って腰を上げると湯船の縁に座った。幸祐の股間は笪也の顔のすぐ近くにあった。笪也は、のぼせたか、と幸祐の顔を見て言った。そして視線をゆっくりと下げて股間を見た。湯のせいで胸元から下はうっすらピンク色になり、男にしては下生えは薄く、その下にしなだれているモノは大きくも小さくもなく、包茎でもなかった。
「そろそろ、俺、上がりますね」
幸祐は立ち上がって湯船を出た。脱衣所に向かって歩いている幸祐の白い尻を見て笪也はつぶやいた。
「…アイツをどうしたいんだろうね、笪ちゃんは…」
しばらく浸かった後、笪也も湯船から上がった。
浴後、二人で瓶入りのコーヒー牛乳を飲んだ。笪也にとっては、かなり甘く感じたが、幸祐は美味しいと一気に飲み干した。
「気持ちよかったですね、成宮さん」
「あぁ?…成宮さんって言ったな」
幸祐は、あっ、という顔をしたが
「でも、ここは、家の外ですから」
笪也は咄嗟に機転を利かした幸祐の言い返しに苦笑した。
「そんなことだと家の中じゃあ何にも話さなくなりそうだな」
「えっ…そんなことないです。ちゃんと、笪ちゃん、て言いますから…少し時間をください」
「お前、言いますって…」
そう言って幸祐の頭をポンと叩くと、その手を幸祐の肩に回した。
幸祐は肩を組まれた笪也の腕がなんだか心地よく思えた。
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