22 / 96

第5話 ホラー映画と褥(2)

 たまたま、一緒に観た映画がホラーだったことで、幸祐と布団を並べて寝ることができたのは、笪也にとっては、思いがけないラッキーなことだった。とは言え、天井の染みなど、散々怖がらせておいて、ラッキーというのは幸祐には気の毒な話しである。  布団を引きずってきて恥ずかしそうに、お邪魔します、と言った幸祐だったが、笪也は俺の布団に入ればいいのに、と本気で思った。      布団を被ったまま幸祐は、おやすみなさい、と言うとそれ以上のおしゃべりもなく寝てしまった。  笪也はスタンドライトの明かりを最小限にした。そして幸祐の顔付近に耳をそば立てて寝息を確認すると、被っている布団をそっと引き下げた。口を少し開けた穏やかな寝顔だった。  仄かな明かりの中、幸祐の肌の白さが際立って見えた。起きている時は気付いてなかったが、幸祐の睫毛は長かった。たまにあどけなく見えるのは、この睫毛のせいかもしれないと笪也は思った。    笪也は幸祐の唇に触れてみたくなった。人差し指をゆっくりと幸祐の顔に近づけると、うぅん、という声で幸祐は寝返りを打って、反対向きになってしまった。笪也は慌てて指を引っ込めると、ふう、と息を吐き出した。  もう少しだったのに、と残念がったが、翌朝の幸祐の寝起きの顔を楽しみに笪也も目を閉じた。  笪也はセットしていたアラーム音が鳴る前に目が覚めた。  隣りに寝ていたはずの幸祐は布団ごといなくなっていた。台所で物音が聞こえた。幸祐は早くに起きて朝食の用意をしているようだった。既に布団も自分のスペースに戻されていた。笪也はがっかりしながらアラーム設定を解除した。 「笪ちゃん、おはよう。昨夜はありがとう。お陰様でぐっすり眠れました」 「…あぁ。おはよう。それは何よりで…」  笪也は、布団の中の寝起きの幸祐が、安心して寝ることができたよ、とでも言ってくれたら、今日からここで寝ろよ、と強引に持ち掛けようと思っていた。が、脆くも残念な結果となってしまった。  笪也は幸祐が淹れてくれたコーヒーを飲みながら、また一緒に布団を並べるにはどうしたらいいか、真剣に考えた。 「笪ちゃん、朝から仕事のこと考えてるの?コーヒーもう少し入れようか?」  幸祐は、眉間に皺を寄せて一点を見つめる笪也に言った。 「あぁ、そうだよ。難しい案件を抱えていてね」 「お疲れ様…無理しないでね。そうだ、今晩は笪ちゃんの好きな煮込みハンバーグ作ろっかなぁ」  笪也は笑顔で話す幸祐の顔をまじまじと見ると、長い睫毛がはっきりとわかった。 「…なに?…なんか付いてる?」 「いいや、何も」  また、隣同士で寝る方法は、掃除ついでの部屋の模様替えしか、笪也は思いつかなかった。

ともだちにシェアしよう!