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第7話 二人の関係 (3)
笪也は頭を抱えていた。
今、幸祐は先にシャワーにいっている。さっき幸祐から思いがけなく、好き、と言ってもらえた。自分もシャワーを素早く済ませて幸祐と、と思いたかったが、今晩中にまとめなければならない資料がある。
笪也は資料まとめはなんとか明日以降にならないものかとスマホのカレンダーを見ると幸祐との共有欄に『おばあちゃん』の緑の文字があった。幸祐の予定だ。
笪也は、幸祐が明日の出勤前に以前一緒に住んでいた祖母の家に行くことになっているのを思い出した。
幸祐は明日はかなりの早起きをすることになる、つまり早く寝かしてやらないといけない。
幸祐がバスタオルを頭に被って階段を上がってきた。
「シャワー、お先。笪ちゃん、どうぞ」
幸祐は冷蔵庫から牛乳パックを出してコップに注いだ。そして一気に飲むのを笪也はじっと見ていた。
幸祐は笪也の視線に気付いた。そしてテーブルの上のパソコンにも目をやった。
「…笪ちゃん、今日も仕事あるんだね。お疲れ様。濃いめのコーヒー淹れようか」
「ありがとう。お前、明日はおばあちゃん家に行く日だな」
「そうなんだよ…シャワーしてる時に思い出した」
幸祐はバスタオルで頭をゴシゴシ拭いていると、笪也に声をかけられた。
「…幸祐、おいで」
笪也は座っている椅子を後にずらした。傍にきた幸祐の腰に手をやり、自分の膝の上に跨がらせて向かい合うように座らせた。少し恥ずかしそうにする幸祐の腰を笪也は優しく支えた。
「幸祐がさ、俺を好きって言ってくれて、本当嬉しかった…できれば、このまま一緒に布団の中に入って、ぎゅっとしたいんだけど」
笪也はそう言って、膝の上の幸祐を抱きしめた。幸祐も笪也の首に手を回した。
「俺はこんな時に仕事をしなければいけないし、お前も早く寝た方がいい…」
笪也はシャワー後の少し湿り気のある幸祐のパジャマの胸元におでこを引っ付けた。幸祐は子供をあやす様に笪也の髪を撫でた。
「…笪ちゃん」
「ああ…仕事にまったくやる気のない俺は、どうしたら仕事ができるだろうか…」
誰に応えを求めるでもなく、笪也は、淡々と言い続けた。
「恐らく誰かの助けが必要と思われるのだか…笪也の膝の上にいる幸祐君は協力してくれるだろうか…笪也は思い悩んでるいるようだった」
ナレーションのように淡々と云う笪也に幸祐はクスクスと笑い出した。
「いったい僕はどうすればいいのでしょうか…笪也さんに訊いてみましょう」
幸祐も一緒になって同じ口調で言った。
「今、一番笪也がしてほしいことは、おそらく幸祐君もしたいことだと思われるが、果たして幸祐君はそれに気付いてくれるのか、そして笪也の願いは叶うのだろうか」
幸祐は笑いながら笪也の首に回した手を笪也の頬に移した。
「もう…笪ちゃんは…」
幸祐は笪也の唇にチュッとキスをした。
「笪也は、まだ足りない様です」
笑い顔の幸祐は、少しだけ色っぽい顔に変わった。そして、笪也がしていたように唇を食んでから、おずおずと笪也の口の中に自分の舌を挿れた。笪也の舌に触れたが、絡ませて吸うまではまだできなかった。
笪也は腰に触れていた手を幸祐の首の後に移した。そして戸惑う幸祐の柔らかい舌を絡ませ、顔の向きを変えながら何度も強く吸った。幸祐の口の中は少しだけ牛乳の味がした。長い々キスの後、笪也は幸祐を愛おしむように見つめた。
「…ありがとう、幸祐。今日はお前からいっぱいもらったよ…大好きだよ」
そう言うと、もう一度キスをした。
幸祐は笪也の膝の上から腰を上げた。そして笪也の後に回ると、耳元で囁いた。
「俺も笪ちゃんが大好き…じゃあ、コーヒー淹れるね」
幸祐はそう言って、コーヒーの用意をした。
笪也はその様子を愛おしくてたまらない表情で見ていた。
幸祐からコーヒーが入ったマグカップを受け取ると、ねぇ、おやすみのキスして、と言いながら、幸祐の頬に手をやった。幸祐もニッコリとして笪也の唇に優しいキスをした。
幸祐は、おやすみなさい、と言って布団に入った。笪也は幸祐の淹れてくれたコーヒーを飲んだ後、心を落ち着かせて仕事を始めるにはもう少し時間が必要だった。
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